俳句の達人は「最高のネタ」をこうやって見つける 岸本尚毅さんと夏井いつきさんに聞く

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夏井 歩いていて、「あ、ちょっとカメラで撮っておきたい」と思うような軽いノリが、言葉探しかもしれない。100円ショップにはあれだけたくさんの物があるけど、立ち止まる物と、立ち止まらない物があるじゃない。立ち止まった物は、好奇心のアンテナに触れたんですね。同じような感覚で、アンテナに引っかかった言葉をひとまずメモしておくだけでもいいですよね。それぐらいの軽い気持ちでスタートしてみましょう。

「言葉」という食材をどう選ぶ?

岸本 言葉探しからスタートして、それを十七音に持っていくのが大変なんですが、あまり十七音にこだわらないほうがいいのでしょうか。

夏井 言葉を見つけたら、あとは「型」が味方してくれます。「型に当てはめる」というレシピを持っていれば、あとは言葉という食材を手に入れたら料理を作れる。本書では、言葉という食材の選び方を練習していきます。

岸本 理想を言えば、十七音のイメージが漠とあって、そこに部品として食材が入ってくるとスムーズなんですが、それを求めるのは難しいでしょうか。

夏井 十七音の漠然とした最終形イメージがあって、そこに食材(言葉)が溶け込んでくる身体になりたいですよね。最初は冷蔵庫の残り物のような言葉しか集められなくても、これと卵二個で何ができるか。

岸本 ポン酢をかけて食べようとか、二手先、三手先まで、十七音のイメージが作れると楽しいですね。

夏井 お料理に喩えるなら、スーパーで食材を買うときに、いい食材を条件反射のように選んでお買い物ができるといいよね。でも最初は誰だってそんなふうにはできないから、ほうれん草一つ買って、「このほうれん草で何の料理ができるかしら?」と考える。そんなふうにコツコツ一緒にやっていきましょう。

岸本 ではここでドリルを1問やってみましょう。

【ドリル】季語の「新涼」と「尻をまくりて」までで十二音は何とかできました。あと五音をどうするか。○○○○○を埋めてみましょう。
やってみよう/「新涼や尻をまくりて○○○○○」
【ヒント】「新涼」は秋のはじめの涼しさ。暑い夏が終わったというホッとした気分が感じられます。どこやら田舎の道を歩いていたら急に催してきた。「尻をまくりて」はおそらく用を足すのでしょう。こんなことでも俳句になるのです。
【解答例】「新涼や尻をまくりて草の中」「新涼や尻をまくりて道の端」

夏井 「尻」をケツと読むと意味が変わりますね。ケツをまくって帰りけるとか。全然違う展開になっちゃいます。大阪人は「ケツ」って読む確率が高いかなって。

『ひらめく!作れる!俳句ドリル』(祥伝社)書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

岸本 「尻(けつ)をまくりて」だと別な句になっちゃう。それはそれで面白いですけどね。

夏井 これを「シリ」と読むということを押さえてからの話ですよね。

岸本 「新涼」と「尻(しり)」の響き合いがいいですね。

夏井 「尻をまくりて草の中」や「尻をまくりて道の端」では飛躍がないですね。

岸本 草や道よりもっと具体的な状況を詠む。そこがポイントです。もとの句は「新涼や尻をまくりて茄子畑 相島虚吼」、大正十四年の句です。茄子畑で用を足すという卑俗な素材がなるべく下品にならないような下五が欲しい。新涼の茄子畑は花も咲き、実もなっている。田舎の風景です。「新涼」と「茄子畑」に挟まれた「尻をまくり」は心地よさそうです。

岸本 尚毅 俳人

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きしもと なおき / Naoki Kishimoto

1961年、岡山県生まれ。俳人。中学時代から俳句を始め、初学時代は「渦」(主宰赤尾兜子)に投句。兜子逝去後、「青」(主宰波多野爽波)入会。「ゆう」「屋根」を経て、現在「天為」「秀」同人。1991年「青」同人賞、1993年句集『舜』で第16回俳人協会新人賞、2009年『俳句の力学』で第23回俳人協会評論新人賞、2012年『高浜虚子俳句の力』で第26回俳人協会評論賞を受賞。角川俳句賞、田中裕明賞、星野立子新人賞、石田波郷新人賞などの選考委員を務める。NHK俳句選者(2018・2021年度)。「岩手日報」「山陽新聞」俳句欄選者。

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夏井いつき 俳人

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なつい いつき / Itsuki Natsui

1957年、愛媛県生まれ。俳人。8年間の中学校国語教諭経験を経て俳人に転身。俳句集団「いつき組」組長。創作執筆に加え、俳句の指導にも力を注ぎ、俳句の授業「句会ライブ」、全国高等学校俳句選手権「俳句甲子園」の創設にかかわり、「俳句の種まき」活動を積極的に行う。「プレバト!!」(MBS/TBS系)をはじめ、テレビ・ラジオ・雑誌・新聞・webなどの各メディアで活躍。松山市公式俳句サイト「俳句ポスト365」選者、「朝日新聞」愛媛俳壇選者、「愛媛新聞日曜版」小中学生俳句欄選者。2015年より俳都松山大使。

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