「経営者の報酬」を減らして最低賃金を引き上げよ

衝撃!「中小企業の労働分配率80%」に潜む欺瞞

地方で最低賃金が低いのは、都道府県別で生産性に大きな違いがあるから、という分析を見たことがあります。例えば、京都府の生産性は451万円で、滋賀県の395万円より高いので、京都府の最低賃金(909円)は滋賀県の最低賃金(868円)より高くて当然だという指摘でしょう。しかし、これはあまりにも表層的な分析だと言わざるをえません。

生産性が高いか低いかは、主にその都道府県における大企業比率で決まります。しかし、最低賃金で働いている労働者の多くは、小規模事業者と中堅企業に雇用されています。

実は、京都府の中堅企業と小規模事業者の生産性は、滋賀県より低いのです。京都府の生産性が滋賀県より高いのは、大企業の生産性が滋賀県の1.5倍もあるからです。意外に思われるかもしれませんが、小規模事業者の場合、都道府県別の生産性の違いはさほどないので、この指摘は見当違いです。

「中小企業は労働分配率が高い」に潜む欺瞞

さらには、「小規模事業者はすでに労働分配率が80%を超えているので、今まで以上の給料は支払えない。これ以上の給料を支払わなくてはいけなくなれば、倒産してしまう」という趣旨のことも言われます。

小規模事業者の労働分配率が高いのはたしかに事実です。企業法人統計のデータによると、2019年、資本金1000万円未満の企業の労働分配率は80.0%でした。小規模事業者を除いた全体の平均が61.6%なので、小規模事業者のほうがかなり高いです。このデータだけを見ると、倒産・廃業の理屈はもっともらしく聞こえます。 

しかし、細かく分析をすると、まったく違った側面が見えてきます。小規模事業者の場合、役員への分配率が異常に高いのです。全体の労働分配率は80.0%ですが、従業員への分配率を計算すると51.5%まで下がります。大企業の48.0%とあまり変わりません。

小規模事業者の場合、従業員の数が少ないので、役員への分配の負担は当然重くなります。小規模事業者の役員数は小規模事業者の雇用の38.6%を占めますが、これは中堅企業では11.5%、大企業では1.0%です。

しかし、それだけでは説明ができません。小規模事業者の場合、節税対策で恣意的に役員数を増やし、利益を抑えているケースが多いのです。実際、小規模事業者の従業員は平均して5.6人ですが、役員は平均1.6人もいます。さらに、付加価値が増えると役員の数が増加する傾向も顕著です。簡単に言えば、節税対策のために役員に支払う報酬を増やしているので、労働分配率が高く見えるだけなのです。

最低賃金を引き上げても、その対象となる従業員への労働分配率は51.5%にすぎません。これはあまりにも低い水準ですので、小規模事業者が倒産・廃業することはありません。例えば、小規模事業者の従業員の給料を5%引き上げた場合、役員報酬を7.6%減らせば、吸収できてしまうのです。

このようにさまざまな反対意見を検証し、総合的に考えると、最低賃金を徐々に引き上げ、国民全体の所得を増やし、それによって個人消費を喚起するのが、最も健全な経済政策だと結論づけられるのです。

次回はイタリアの例を参考に、最低賃金と非正規雇用の関係を検証します。

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