「経営者の報酬」を減らして最低賃金を引き上げよ 衝撃!「中小企業の労働分配率80%」に潜む欺瞞

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残念ながら、日本は1円の引き上げにとどまりました。

アメリカの統計を見ると、2010年には7.25ドルの連邦最低賃金を上回る水準で最低賃金を定めていたのは9州だけでした。もっとも高いワシントン州が8.55ドルで、連邦最低賃金を18%上回っているだけでした。

一方、2021年には、連邦最低賃金を上回る最低賃金を定めている州が31州まで増えています。しかも、最も高いコロンビア特別区の最低賃金は、連邦最低賃金の2.1倍です。

このような最低賃金の引き上げトレンドは、特に2013年から顕著になっています。

アメリカは、コロナによって経済が日本よりひどいダメージを受けましたが、この2年間で9.6%も最低賃金を引き上げています。EU27カ国とイギリスでは、この2年間の最低賃金の引き上げ率は8.3%です。

2020年、日本の最低賃金の引き上げ額がたったの1円になったのは、「コロナ禍なので、雇用を守るために据え置きにするべきだ」という主張があったからです。

「2021年10月」は引き上げの絶好のタイミング

日本よりコロナによる経済ダメージが大きかったにもかかわらず、政府の財政出動が小さかった海外の各国では、先ほど紹介したように大幅な最低賃金の引き上げが実行されています。しかし科学的根拠を軽視する傾向の強い日本では、2020年は最低賃金はほぼ据え置かれてしまったのです。さて、2021年はどうなるでしょうか。

2021年5月14日に開催された経済諮問会議で、2021年度の最低賃金を3%以上引き上げる必要性について議論されました。

菅総理は「格差是正には最低賃金の引き上げが不可欠である。より早期に全国平均で時給1000円にすることを目指し、今年の引き上げに取り組む」と表明しました。

コロナ禍という未曽有の事態に襲われてしまったので、2020年の据え置きは、百歩譲って理解できなくもありませんが、2021年に関しては、引き上げは必ず実施されるべきだと思います。

諸外国の多くは最低賃金の引き上げのタイミングが1月や4月ですが、幸いなことに日本は10月です。10月になれば、ワクチンの接種が進み、日本も海外も景気が回復していることが予想されるので、最低賃金の引き上げのタイミングとして非常にいいと思います。今年10月のタイミングを逃し、来年の10月になってしまうと、諸外国からさらに2年間の後れをとることになります。それはあまりに遅すぎるでしょう。

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