精神科医が解説する大坂なおみ「うつ告白」の勇気 突発的な行動や発言が出るときの脳の状態

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しかし、脳が健康な状態であれば、「理性」や「理論」で、扁桃体の興奮を鎮めることができます。例えば、仕事で失敗して上司にこっぴどく叱られたとき、「バカヤロー!」と心の中で叫んだとしても、面と向かって上司に「バカヤロー!」と怒鳴りつける人はまずいません。

なぜならば「そんなことを言ったら大変なことになる」という「理性」「理論」(大脳皮質のコントロール)が働くからです。

しかし、長期的にストレスがかかり、「脳疲労」(脳が疲れた状態)に陥ると、大脳皮質のコントロールが利かなくなる。つまり、言ってはいけないことを、感情にまかせて言ってしまう。わかりやすく言えば、「キレやすい」状態に陥るのです。

うつ状態に陥ると起こること

大坂選手が「うつ状態」であると考えると、「記者会見のボイコット」も、致し方ないことであると思えます。

うつ病の重要な症状として「人と会いたくない」「人と話したくない」というものがあります。うつの患者さんが、人と会う。とくに、自分と親しくない人と会うことは、ものすごい精神エネルギーを消耗します。

もともとコミュニケーションが得意ではなく、記者会見やインタビューが苦手な大坂選手にとって、うつ病によくある「人と会いたくない」症状が強まっていたとするならば、記者会見への出席は尋常でないストレスとしてのしかかったはずです。

思わず、そこから逃げ出してしまったというのも、非常に納得がいきます。人間が追い詰められたときにとる行動は、「闘う」か「逃げる」しかないのですから。

大坂選手が精神科医の診察や治療を受けているのかはわかりませんが、うつ状態に陥ると、自分で冷静で論理的、正しい判断をすることは困難となります。ほとんどのうつ病患者さんは、無理に無理を重ねて仕事を続けてしまいます。

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