医療政策で「需要」と「ニーズ」を使い分ける理由 知っておいたほうがいい「医師誘発需要仮説」

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医療市場の構造については、ビジネスパーソンも意外と知らないことが多いようだ(写真:mrwed54/PIXTA)

医療政策に関する文書の中では、「需要」ではなく「ニーズ」という言葉が意識的に使われる。

「需要」と「ニーズ」はまったく違う

たとえば、2013年の『社会保障制度改革国民会議報告書』には次のような記述がある。

1970年代、1980年代を迎えた欧州のいくつかの国では、主たる患者が高齢者になってもなお医療が「病院完結型」であったことから、医療ニーズと提供体制の間に大きなミスマッチのあることが認識されていた。
急性期治療を経過した患者を受け入れる入院機能や住み慣れた地域や自宅で生活し続けたいというニーズに応える在宅医療や在宅介護は十分には提供されていない。

なぜ「需要」ではなく「ニーズ」なのか?

その理由は簡単で、顕在化している需要が患者の医療ニーズと必ずしも一致しないからである。かつてこの国では、医療需要を減らして介護需要のほうにシフトさせていくことを目的として介護保険が生まれたりもした。本当に存在していたニーズは、医療ニーズではなく介護ニーズだったからである。だが、医療需要は存在していた。

目下展開されている医療政策の目標は、医療ニーズに提供体制をマッチさせることにある。それにより、医療の質を高めることになる。医療の質を高めるために提供体制の改革が必要と言い続けてきたことは、そうした理由による(『日本の医療は高齢社会向きでないという事実ー「医療提供体制改革」を知っていますか?』(2018年4月21日))。

医療需要は、現実に顕在化したものであり、常に提供体制とマッチしている。ゆえに、需要に提供体制をマッチさせるなどという日本語は成立しない。しかしながら、ニーズに提供体制をマッチさせるという日本語は意味をなす。だから、先の『社会保障制度改革国民会議報告書』の中に、次のような文章が書かれることになる。

高齢化の進展により更に変化する医療ニーズと医療提供体制のミスマッチを解消することができれば、同じ負担の水準であっても、現在の医療とは異なる質の高いサービスを効率的に提供できることになる。

なお、社会保障制度国民会議で私が報告をした際のタイトルは、「国民の医療介護ニーズに適合した提供体制改革への道筋――医療は競争よりも協調を」(2013年4月19日)であった。

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