「格差は不当」と憤る人が気づいてない過酷な摂理 完全に自由な自由主義経済である限り不平等に
このように、ランダムにかき混ぜることによって、分配に格差が生じることは、物理学ではよく知られてきた現象である。このようなかき混ぜることによって生じた自然で、ありふれた分配状態は、重要な物理法則である「エントロピー増大の法則」に従った結果だ。これらの統計的な分配を扱う学問を「統計物理学」と呼び、一大分野として確立されている。
実は、経済現象も、このエントロピーが増え続けるという物理法則を逃れることはできない。拙著『予測不能の時代』でも詳しく解説しているが、極端に平等な状態からスタートしても、エントロピー増大の法則のため、つねに格差は大きくなるのである。
ただし、前記のシミュレーション結果(図(b))に見える格差は、現実世界の所得や資産の格差のレベルに比べるとまだ小さい(図⒝のシミュレーションでの格差は「指数分布」と呼ばれるものに近づくが、現実の所得格差はもっと偏りが大きい「べき分布」と呼ばれるものに近い)。
実は、社会に生じる格差の大きさ・偏りは、このエントロピー増大の法則の効果を何重にも増幅させることによって生じる。この増幅のメカニズムを次に説明する。
不平等を拡大させるルールの存在
ここで「平等」や「不平等」を考えるときに、思い出すゲームがある。トランプゲームの「大貧民」(あるいは「大富豪」)である。
ご存じの人も多いかもしれないが、大貧民では、1回のゲームが終わると、その順位によって、「大富豪、富豪、平民、貧民、大貧民」といった階級がプレーヤーにつけられる。そして、次のゲームでは、この階級によって処遇に大きな有利不利が生じる。
具体的には、大貧民や貧民は、最初に持っているよいカードを、大富豪や富豪に渡さなければいけない。一方で、大富豪や富豪は、手持ちの悪いカードを、大貧民や貧民に渡すことができる。これにより、大富豪や富豪にとって、ゲームが圧倒的に有利になり、貧民はなかなか浮かび上がれない。格差を固定化する構造がゲームのルールに組み込まれているのである。
このゲーム「大貧民」の世界では、最初は階級を定めずに、平等なルールで1回目のゲームを行い、その結果によって、2回目のゲームにおける大富豪から大貧民の階級を決める。この場合、開始時点では当然、全員平等である。しかし、1回目の平等なゲームの結果によって、2回目のゲームでの各人の処遇(すなわち誰が大富豪や大貧民になるかの割当)が決まる。
そして、2回目以降のゲームでは、大貧民と大富豪とでは、ルールは平等ではない。大きな処遇の差(有利不利)が設定されており、とうてい平等とはいえない。
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