「初孫ができた60代」は相続対策で何をすべきか 金融機関の「お勧め」を鵜呑みにしてはいけない

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贈与の金額がそれほど多くないのであれば、「ジュニアNISA」の使い勝手がいいかもしれません。新規で投資ができる期間は2023年までですが、その後廃止が決まったことで引き出し制限が撤廃され、必要に応じていつでもお金が引き出せるようになりました。NISAですから運用益は非課税、さらに口座の名義人であるお子さんが成人するまでは継続管理勘定に移して引き続き非課税で運用が可能です。年間の投資限度額は80万円ですが、廃止までの3年間で総額240万円の贈与は可能です。

ジュニアNISAは株式や投資信託などで資金運用していきます。今回の相談者のお孫さんは生まれたばかりですから、大学までの費用を考えると十分投資期間があるものの、運用商品は吟味したいところです。

ちなみに、ジュニアNISAに投資する年間80万円をお孫さんに贈与すると、非課税で贈与できる年間枠(暦年贈与であれば年間110万円まで非課税)が残り30万円になるので注意が必要です。さらに、現在お孫さんは1人ですが、息子さんは2人います。どちらか一方のお子さんだけに贈与するというわけにはいかないでしょうから、それを踏まえた計画も必要でしょう。

元気なうちに「情報の記録」を済ませておく

相談者の男性は「金融機関ではこれら3つのことは、今すぐやらなければならないといった口調でしたが、その前にやるべきことがありそうですね」と気づいたようでした。エンディングというと、死後のための資産整理のようなイメージを持つかもしれません。でも、これからの時間をどう豊かに暮らすか、それがエンディングの本質ではないでしょうか。必要以上の相続対策はお金を使いにくくする可能性が高く、慎重に検討することです。

一方で、男性が今すぐに取り組みたいことは「情報の記録」です。例えば、金融機関の口座番号、印鑑、暗証番号、残高、公共料金がどこから引き落としされているのかも、まとめておくといいでしょう。保険の証券番号、保障内容、受取人などの情報も整理しておくと便利です。年金も種別ごとに問い合わせ先などを記録します。

また支出も記録します。お祝いなども含め、誰に、いつ、何の目的でいくら渡したのかを書き留めておきます。医療費や介護費がかかるようになったときも同様に記録します。そうすればお金の出入りが可視化されます。自分の死後、さまざまな手続きが生じます。遺された家族が手続きをスムーズにできるように、「思いやり」として記録しておきたいものです。

昨今、エンディングや相続対策といった言葉が独り歩きをして、手元のお金を何かの金融商品に変えなければならないと勘違いする人も少なくありません。お金は幸せに使うことが目的ですから、そこをはき違えないことが重要です。

山中 伸枝 ファイナンシャルプランナー、FP相談ねっと代表

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やまなか のぶえ / Nobue Yamanaka

FP相談ねっと代表。一般社団法人公的保険アドバイザー協会理事。アメリカ・オハイオ州立大学ビジネス学部卒業。「楽しい・分かりやすい・やる気になる」ビジネスパーソンのためのライフプラン相談、講演を数多く手掛ける。大手新聞社主催のiDeCo(個人型確定拠出年金)やNISAセミナーの講師など登壇も多数。金融庁のサイトで、有識者コラムを連載。著書に『「なんとかなる」ではどうにもならない 定年後のお金の教科書』(インプレス)、『ど素人が始めるiDeCo(個人型確定拠出年金)の本』(翔泳社)、『100人以下の会社のためのiDeCo&企業型DC楽々活用法』(日本法令)ほか。公式サイト

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