松坂桃李「ファンの予想を常に裏切る」破格の才能 陰キャからサイコパス…何でも演じる透明な器
映画『新聞記者』でも、観る者の正義と良心を問う大役を果たした。外務省から内閣情報調査室に出向したエリート官僚の役だ。内調の仕事は「犯罪者でもないのに公安が尾行してスキャンダルを作り出す」「官邸に近い男からレイプされた被害者を野党がらみのハニートラップと印象を操作する」こと。疑問と嫌悪を覚えながらも、外務省に戻るまでの辛抱と飲み込む桃李。家には身重の妻もいる。
ところが、外務省時代の尊敬する上司(高橋和也)の自死を機に、心が揺れる。大学新設の裏で進行していた政府主導の「人道から外れた計画」の真相を追及する新聞記者(シム・ウンギョン)に、情報提供する覚悟を決めるのだが……。
透明な器になれるイケメン俳優
いずれの桃李も、一見主張があるように見えて、実は透明な器のような存在だ。何をどうとらえるか、「自分だったらどうするのか」を視聴者や観客に問う。主語をもってゴリゴリと主張する演技ではなく、戸惑いや揺らぎ、保身などの葛藤をしっかり見せながらも、最終的に答えは観る者に委ねる。そんな役が抜群にうまい。悪く言えば、華やオーラ、アクがないのかもしれない。でも、この透明な器になれるイケメン俳優というのも実は少ない。頼りなさは高等な芸で至難の業と知る。
この手の役で、桃李の代表作といってもいいのが映画『狐狼の血』ではないだろうか。暴力団との癒着が疑われる悪徳刑事(キレッキレの役所広司)を監視するために県警本部から送り込まれる新人エリート刑事役。
圧倒的な悪の描写、正義の視点が終盤に向かって一気に覆される名作だが、観る者の心はまんまと桃李に投影され、まんまと引っ張られて揺さぶられる。ラストシーンは「覚醒」。たぶん今夏公開の続編『孤狼の血LEVEL2』で、桃李の進化形が観られることだろう。
私の記憶の中で最も古い桃李は『GOLD』(2010年・フジ)だ。天海祐希主演のドラマで、金メダル至上主義の母親に育てられる、気が弱くて女にも弱い長男の役だった。五輪を目指す水泳選手にしてはなんとまあ線の細い男子なのだろうと思った。妹役で登場した武井咲があまりに神々しくて、桃李は「陰のある」印象に。
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