なぜ手段の目的化がうまくいかなかったのか。移動という体験そのものに価値を付加できなかったのか。
例えばバスに付加価値をつけようという議論になると、典型的なのはボンネットバスやレトロバスのようにフォトジェニックな擬装です。タクシーでもデコレーションしたご当地タクシーなども良くあります。でも結局それは見た目の話であって、乗ってしまえば皆一緒です。外から見ているから良いのであって、乗車体験に価値を付加しているわけではありません。極端に言えば、路上で発見してスマホで撮ってSNSにアップすれば済む話であり、運輸事業の本質的な価値提供ではありません。
他の例で、バスの燃料源を化石燃料から電力に変える、バスの電動化を考えたこともあります。電動バスは通常のバスと比較し、乗り心地や音量のレベルが全く異なります。しかも実際に五感で体験してはじめて、その良さがわかります。まさに新しい乗車体験です。しかしその具体化の過程で、結局予算が続かず頓挫しました。
あるいはまた別の運輸事業で、とあるコンサルティング会社からとてもイノベーティブな提案を受けたことがありました。かなり斬新なものでしたが、結局コンセプトで終わりました。実現のディテールには、課題が多すぎたのです。
コンサルタントはコンサルティングというビジネスをしているのであって、ビジネスそのものの当事者ではありません。それは強みでもありますが、同時に制約でも限界でもあります。結局決めるのはその事業を実際に行う会社です。
他には業界の人たちと勉強会をしたこともありました。しかしそこでは上とは逆にディテールの議論に注視し、戦略不在のままダメ出し大会で終わりました。
楽天の高いポテンシャル
これらの(個人的な)失敗の歴史から学んだこと。結局は金がないとダメという事です。あるいはコンセプトがあってもディテールを知らなかったり、リスクにコミットできないような理想家や発明家ではダメだということです。更には、その一方でディテールにやたら詳しいだけの現場派や叩き上げでもダメだということです。
今回、楽天は出資をしています。資金面のみならず記者発表の中でリスクをとってコミットしています。また他業種で培った風を吹き込み、コンセプトをしっかり打ち出せるポテンシャルがあります。そしてディテールまで分かる人たちとしっかり組んでいます。
運輸事業にとって念願の手段のビジネスから目的のビジネスへの転換。微妙な出資比率は本質ではありません。運輸事業の新たな価値提供に苦しんで苦しんで結局実を結べなかった身として、大いに注目したいと思います。
※本文は筆者の個人的見解であり、所属する組織・団体を代表するものではありません。
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