日本人が知らない「中小企業M&A」、加速する4理由 公表されていない「本当」の日本のM&A市場は?

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株主はつねにリターンを要求しますので、余剰資金は配当するか、さもなければ成長に向けた投資に振り向けなければなりません。

そうなると、企業価値を向上させる可能性があるM&A案件が目の前にあるのに、それを検討もしないということは、「株主に対して誠実に仕事をしていない」と見なされてしまいます。

もちろん、過剰な買収資金を投じて、逆に企業価値を毀損させてしまえば元も子もありません。しかし、日本企業も欧米と同じように「株主重視の経営」が求められるにつれ、積極的に企業買収による成長を検討せざるをえず、その結果日本のM&Aは増えることになります。

前述したように、日本のM&A取引総額の「対GDP比」は欧米の半分あるいはそれ以下ですので、日本のM&A市場は「将来的に倍増するポテンシャル」を秘めています。

M&Aから「欧米のビジネス感覚」を身につける

ここまで、「売り手、買い手の要因」「マクロ的視点」「欧米との比較」から、M&Aが増加すると思われる理由をお伝えしました。今後も、中長期の傾向としては、日本の中小企業のM&A件数は間違いなく増えていくでしょう

欧米で先行したビジネスやビジネス手法は、総じてその後の日本でも普及する傾向にあるといえます。日本でもM&Aが普及してきたといえども、欧米と比べればM&Aに対する感覚はまだまだ全然違います。欧米では、会社を売却できることは「成功者の証し」です。

また、「グーグル」「アマゾン」「フェイスブック」「アップル」「マイクロソフト」のアメリカのテクノロジー大手5社は、これまで5社総計で優に700社以上の買収を実行し、「日常的」ともいえるほど頻繁にM&Aをしながら企業価値を増大させてきています。これが欧米の経営者の感覚です。

日本のビジネス界が一足飛びに欧米ほどM&Aが普及した状況になるとは思いません。しかし、中小企業の経営者も「M&Aに対する抵抗感」も薄れてきており、普通にM&Aの話ができるようになってきましたし、買い手企業側でもM&A・投資に精通した人材も増えてきており、欧米の感覚に近づきつつあります

いずれにしても、「M&Aはビジネスパーソンとして必須の教養・知識」になってきていますので、「M&Aといわれても、まだよくわからない」という方は、この機会にM&Aについて、じっくり学んでみてはいかがでしょうか。

藤井 一郎 インテグループ代表取締役社長

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ふじい いちろう / ichiro Fujii

1997年に早稲田大学政治経済学部を卒業後、三菱商事に入社。その後、米国サンダーバード国際経営大学院にてMBAを取得。2007年にM&A仲介・アドバイザリーのインテグループ株式会社を設立し、代表取締役社長(現任)に就任。中堅中小オーナー企業、上場企業、バイアウトファンドなどを顧客に、これまで100件以上のM&A成約に関与。2016年を最後に自ら案件を担当することをやめ、その後は、M&Aコンサルタントの採用・育成、コンサルタントに対する助言および経営業務に専念している。著書に、ビジネス交渉の分野でのベストセラー『プロフェッショナル・ネゴシエーターの頭の中―― 「決まる! 」7つの交渉術』がある。

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