一方の孝之さんは、敬子さんを見た瞬間に「あ! この人だ」と一目惚れのような確信を得た。当時の気持ちを相変わらず正直すぎる言葉で振り返る。
「正直、40歳オーバーという年齢には引っかかっていました。でも、顔写真は優しそうだし、とにかくお医者さんと話してみたかったのです。僕は診察を受けるときぐらいしかお医者さんと会話したことがありません。……保守的なのに、好奇心が強めなので、転職を繰り返しているのでしょう。僕は得体が知れないものに触れたくなってしまうんです」
あまり適切とは言えない表現で人の職業を語る孝之さん。悪気はなさそうだ。「得体が知れない」と言われた敬子さんは苦笑している。孝之さん、弟キャラなのかもしれない。
「妻の端正で凛とした雰囲気はさすがにお医者さんだなと思いましたが、話してみると普通でした。構えずに安心してコミュニケーションができたんです。お医者さんという仕事についていろいろ聞きまくってしまいました」
コロナ禍で「同棲しよう」との決断に
お互いに惹かれ合って付き合い始めた矢先、コロナ禍が起こって緊急事態宣言が出た。そのタイミングで敬子さんは孝之さんに同棲を提案。外では会いにくい状況で、このままではらちが明かないと判断したからだ。
「私は医者です。同居していない相手から感染したら職場で説明しようがありません」
慎重派の孝之さんは迷いがあったと告白する。感染リスクが高いとされる医師とこのタイミングで同棲するのは早すぎるのではないか、と。
「でも、断ったりしたら関係がギクシャクしちゃうかもしれませんよね」
当時の逡巡をわざわざ言葉にしてくれる孝之さん。それを聞いていた敬子さんが抗議した。
「でも、結果は満足してたじゃん!」
敬子さんによれば、孝之さんは暗くて狭いボロボロの部屋で冷蔵庫もテレビもない状態で暮らし続けていた。遊びに行ったときに「ここにいたら病む!」と感じたという。
いま、2人は都心の日当たりの良い2LDKで過ごしている。寝室とリビングの他、テレワーク中の孝之さんが仕事に集中できる部屋もある。敬子さんは孝之さんに料理をはじめとする家事も教えている。日々レベルアップしたい孝之さんは自分の家事能力が上がることにも喜びを覚えているのだ。
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