業種別の4月の雇用者数増減をみると、経済活動再開に伴って正常化しつつある娯楽宿泊業が前月からプラス33万人と3カ月連続で大幅な雇用拡大が続いている。
一方、自動車などの製造業、運輸業、人材派遣などの企業向けサービス業では4月に雇用が減少した。これらの雇用減少は単月の動きかもしれないが、新型コロナ禍からの正常化の過程において、一部産業においてスムーズに雇用が回復していない可能性がある。また、人材派遣業の雇用減少は、人材派遣サービスを通じた雇用創出の衰えを意味し、労働市場における「需給のミスマッチ」が大きい可能性を示している。
新型コロナによって2020年4~6月には、戦後最大規模の経済ショックが、対人型のサービス業を中心に発生した。すぐにアメリカ経済は正常化に転じ、巣ごもり需要の拡大もあって経済回復は製造業において急ピッチに進んだいっぽうで、大きなショックを受けた対人型サービス業の回復は鈍い。
ワクチンの普及でサービス業の正常化は今後進むとみられる。だが、コロナ禍によって恒久的に市場が縮小する動きがあるため、すべての「対人型サービス」が元通りに復活する可能性は低いと筆者はみている。このため、コロナ禍の恩恵を受けて成長している企業・産業があるいっぽうで、深刻なダメージを受けた企業・産業がある。
労働市場では、雇用を維持できなくなった産業から、成長する産業への雇用者のシフトが起きるため、今後の経済・労働市場の回復過程において産業構造調整が同時に起きるわけだ。
FRBはいつテーパリングに着手するのか
異なる産業への雇用シフトは、同じ産業間での雇用移動ほどスムーズに起きないとみられる。このため、財政政策の後押しもあって、2022年までアメリカ経済は極めて高い経済成長率になるとみられるが、雇用の回復は遅れる「ジョブレスリカバリー」の様相が強まると予想される。今後の雇用回復の特徴が、この4月分の雇用統計の伸びの鈍さとして表れた、と筆者は評価している。
FRBが、テーパリング(量的緩和縮小)を2021年末までに開始するとの見方が、ウォール・ストリートのエコノミストのコンセンサスになっている。実際に、雇用が100万人近く伸びる経済活況が続けば、FRBは2021年末までにテーパリングに着手する可能性が高い。
筆者は4月16日のコラム「もしアメリカ株が下がっても長期化しない理由」で、FRBがテーパリング開始判断を慎重に行うため、その時期が後ずれする可能性を指摘した。雇用回復が緩やかに止まれば、こうした筆者の予想通りの展開が想定される。
今回の雇用統計で、6月15~16日のFOMC(連邦公開市場委員会)においてテーパリングの議論を始めることは難しくなったとみられる。今回の雇用統計の鈍さが一時的で雇用の大幅な伸びが確認されるのは、ジャクソンホール会合が行われる夏の終わりまで待つ必要があるのではないか。
今週発表された4月CPI統計が大きく上振れたため、FRBの金融政策に対する市場の不透明感が再び高まった。コアCPIは2%を当面上回ると予想されるが、労働市場の回復度合いを重視するFRBの慎重姿勢は変わらないと筆者は考えている。
(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)
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