会計事務所に勤めていた智明は、そうしたお金の計算は得意で、これを言えば元妻が喜んでくれるんじゃないかと思った。ところが、一気に元妻の表情が曇った。そして、険しい顔で問い詰めてきた。
「何で2500万円も頭金が出せるの? 結婚するときに、私が『貯金はいくらあるの?』と聞いたら、『1500万円くらいかな』って言ったよね!」
実は、智明の祖父が資産家で莫大な遺産を残し、21歳のときに父が他界したので、その遺産の一部を相続していたのだ。
「1500万円というのは、僕が働くようになって自分で貯めた貯金だったんです。相続したお金があることは、彼女には伝えていなかった。貯金額が少なくなるのは嫌だろうけど、実はもっと持っていたと増える分には、問題がないと思っていたから」
ところが、実家の遺産相続問題でお金に過敏になっていた元妻は、喜ぶどころか、ほかにも何か隠し事があるのではないかと、智明に対して疑心暗鬼になっていった。
「そこから、関係がますます悪化していきました」
ハワイ旅行で、関係修復を試みたものの
智明は、関係を修復する方向に持っていきたかった。そこで、ゴールデンウィークに、先延ばしになっていた新婚旅行に行くことを提案した。
「そうしたら彼女は、『ハワイに行きたい』と言うんです。義父さんが生きていた頃に、家族でよく南の島に海外旅行を楽しんでいたって。義父の仕事の関係で、子どもの頃は、海外に数年間暮らしていた経験もあったようで。僕は海外には行ったことがなかったんだけれど、海外慣れしている元妻に乗っかれば、楽しい旅行ができるだろうと思って、ハワイ旅行に行くことを決めたんです」
すると、その新婚旅行に彼女の母親もついてくることになった。
「最初は驚きましたよ。『何で?』って聞いたら、『お父さんが死んでから、海外旅行にも行っていないし、いい機会だから一緒に行きたい』って。それを拒否したら、さらに仲が気まずくなるだろうと思ったし、ホテルも違う所を取るというのだから、向こうでは別行動で、お義母さんはお義母さんでハワイを楽しむのかなと思っていたんです」
着いた日は3人で夕食を取り、お互いが宿泊するホテルへ帰ったのだが、翌日は朝9時に近くのショッピングモールで母と娘は待ち合わせをする約束をしていた。そこから1日中3人で行動をし、夜に解散。それが、旅行滞在期間中、毎日続いた。
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