記念飛行の実行に当たって浮上した課題は「無寄港フライトの行き先」だったという。同型機は就航当時、世界最長の旅客定期便(台北―ニューヨーク直行便)として飛んでいたこともあり、それなりの時間を飛行したい。近隣国に行くルートの中からいくつかの候補が検討されたというが、最終的に選ばれたのは「富士山付近まで飛んで帰ってくる」ルートだった。
富士山の神体は、木花之佐久夜毘売命(このはなのさくやひめのみこと)という女神だ。ふじのくに静岡県台湾事務所の宮崎悌三所長は、富士山上空がフライトの目的地となったことについて「空の女王の記念フライトですから、山の女神である富士山に向かう格好にしたわけです」と語る。
同県の現地事務所は2013年に開設。自治体の在外機関は数年で責任者が交代することが多いが、宮崎氏は初代所長として就任以来、今年度で9年目という。「我々の事務所がチャイナエアラインさんのオフィスからごく近いところにあるんです。私たちが同社へ頻繁に通う中で、一緒にプロジェクトをやろう、と誘われた時はとても嬉しかった」。宮崎氏はこう述懐する。
350席が5分で完売
コロナ禍で航空機による旅行需要が激減する中、各国で行われる「どこへも着陸しない遊覧フライト」はどれも発売とともに即完売となり、世界的にヒット商品となっている。今回のお別れフライトも、用意した350席分がわずか5分で売り切れた。
当初は旧正月(今年は2月12日)の直前となる2月6日に実施する予定だったが、直前でチャイナエアラインのハブ(運航拠点)である台湾桃園国際空港の近くで新型コロナのクラスターが発生。やむなく3月20日へと延期された。
747型機をはじめ大型旅客機を保有する航空会社の多くは「数年以内にコロナ前の水準に需要が回復するのは無理」との見通しから、大型機を次々と退役させる判断を下した。コロナ禍のあおりで世界中の航空需要が激減する中、こうした判断はやむをえない。
しかし、長年にわたって世界の空に君臨した747型機が、コロナ禍を理由にさしたるお別れセレモニーもないまま姿を消したのは悲しいことだ。
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