なお、器物損壊罪は、単純に物理的に他人の者の損壊をする場合だけが対象になるのではない。判例では「物が持つ本来の効用を喪失させる行為」も器物損壊罪の対象とするとされている。
「養魚場の水門を開いて鯉を外に流し鯉の持つ価値を失わせた行為」「労働争議の手段として会社事務所の窓ガラスや扉のガラスに合計60枚のビラを貼り付けた行為」も器物損壊罪に当たるとしている。最近ではコンピューターウイルスファイルを使って人のパソコンのハードディスクの読み出し機能などを回復困難にさせた行為も器物損壊罪と認めたというケースもある。
そのために、樹木を伐採したなど物を物理的に損壊するものだけではなく、たとえば、撮影に邪魔な看板を引っこ抜いて放置した、移動して放置した、という場合も「看板としての効用」を失わせることになるから器物損壊罪になる。
民事上の損害賠償にも
もちろん、すべての器物損壊事案について起訴されて刑事裁判にかけられるわけではない。器物損壊事案でもたとえば結果が軽微という認定をされれば起訴されずに終わる場合もあるだろう。
しかし結果が軽微ということで起訴されなかったり、過失による器物損壊としてそもそも刑事責任が問われたりしない場合であったとしても、民事上の損害賠償責任は発生する。
普通の人の対応として、結果が軽微だから賠償してもらわなくてもいい、ということはあまりなく、弁償を求められるのが通常である。樹木や物の損害ばかりではなく、樹木の伐採をしたこと、あるいは物を損壊したことを原因として失われた利益が請求されることもある。樹木が果樹であれば収穫できるはずの実が失われたことの利益も損害である。
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