うつではないのに「やる気が出ない状態」の正体 幸福とうつの間にある精神的に空虚な状態

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心理学において、私たちは精神状態をうつから幸福までの範囲で考える。幸福は、最も健康な状態を指す。意義や優越感を強く感じ、人から必要とされていると感じることができるのである。うつは病気のどん底のことを指す:落胆や疲労を感じ、自分に価値がないと思い込んでしまうのである。

虚脱感とは、精神衛生において、無視された真ん中の子のようなものである。うつと幸福の間に挟まれた空虚な状態――健康の欠如――なのである。精神疾患には自覚症状がないが、精神衛生が具現化されるわけではない。完全な力を発揮できない状態なのである。虚脱感はやる気を損なわせ、集中力を欠如させ、困難を3倍にし、仕事量を減少させるのである。それは大うつ病よりも頻繁に見受けられ、場合によっては精神疾患の大きなリスク要因となりうる。

10年後にうつや不安障害が表われる可能性

多くの人がうつ病ではないのに活力もないという状態に対して、社会学者コリー・キーズ氏のひらめきによって、虚脱感という用語は作られた。彼の研究は、現在は症状が表われていない人に関して、10年後に大うつ病や不安障害が表われる可能性が高いと示した。それが現在虚脱感を覚えている人なのである。イタリアのパンデミック健康管理従事者によって、昨春に虚脱感を覚えた人は同じ属性の人と比べて、心的外傷後ストレス障害の発症リスクが3倍になることが明らかになった。

あなた自身は虚脱感がなくても、知人で虚脱感を感じている人はいるだろう。このことに関して良く理解することが彼らを救うことにつながるのである。

心理学者によると、感情管理の最も有効な対策は、それに名前を付けることである。昨春、パンデミックの急な苦悩の最中、ウイルスに関してハーバード・ビジネス・レビュー史上最も大きな話題を呼んだ記事は、私たちの集団的な苦しみを悲痛と表現した記事だった。

愛する人を失った悲しみと同時に、私たちは正常性を失ったことを悲嘆していた。「悲痛」。それは私たちにとってなじみのなかった経験のように感じられていたことに対して、理解できるなじみある用語が与えられたのである。過去にパンデミックに直面したことがなかったものの、ほとんどの人が喪失を経験したことはあった。それは自身の過去の回復の教訓を具体化させ、現在の逆境に立ち向かう能力への自信につながった。

虚脱感の原因やその治療方法に関して、解明すべきことはまだたくさんあるが、名称を付けることはそれに向けての第一歩なのかもしれない。それは、今までの靄のかかった経験に関して、はっきりとした視界を提供し、見通しを明確化することにつながるかもしれない。それは、私たちが1人きりではないということを思い出させてくれるかもしれない。虚脱感は一般的なもので、共感を得られるものなのである。

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