日本の不毛な就活、採活を撲滅できるか? 書評:『みんなで変える日本の新卒採用・就職』
ただ内容を見ると、「学生がかわいそう」「こういう新卒採用の仕組みがけしからん」「いやいや学生の学力に問題がある」「そもそもゆとり教育を始めたのは文部省(当時の名称)ではないか」と大上段だ。しかし、これらの主張には価値判断が含まれている。
良いか悪いかの価値判断をしてしまうと、そこから先に進めない。問題があることはよくわかるが、「なすべきこと」が見えなかった。就活を論じる本にそんな不満を抱いてきたが、ようやくまともに新卒採用・就職の仕組みを腑分けし、当為を論じる本が出版された。
本書は5章で構成されている。1章では「日本の就職」の実態をえぐり、2章では政府の要請を受け入れた経団連の指針(3月1日採用広報開始、8月1日選考開始)が与える2016年卒採用への影響を予測し、3章では新卒一括採用にまつわる誤解を論じ、4章では実行すべき解決策を示している。
そして5章では著者の長女と長男の就職活動を記して、自己分析などのマニュアルを実行しなくても志望企業に就職できる事例を報告している。全体を読んでの印象だが、文章が平易で納得しやすい。
就活をゆがめる「平等主義」
新卒採用・就職でおかしなことはたくさんある。たとえば自己分析を過度に強調するマニュアルは、「あなたは別の自分になりたくないですか」と問う自己啓発本のような色を帯びている。そして人気企業には10万件を超えるプレエントリーが集まる。10万と言えば、かなり大きめの地方都市の人口である。
そういう現象を引き起こす原因はひとつであると本書は論じている。原因は「平等主義」である。学生は自分の学力、大学レベルを省みず、著名企業に入社する機会があると考えて就職ナビからプレエントリーする。そして企業も、大学による差別をせず、学生一人ひとりからの応募を大事にすると就職ナビに宣言している。この建前を学生は信じて高望みする。つまり新卒採用・就職の現実は虚妄の上に成立しているのだ。
大人がこんな虚妄を許容していいはずはない。著者の処方箋を紹介しよう。まず虚妄を成立させているあやしい数字を排し、正しい情報を公開する必要がある。たとえば大学が公開している「就職率」は軒並み「90%台」だが、母数は就職希望学生だ。心折れて就職をあきらめた学生ははじかれている。
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