餅もミカンも注意「カビは削れば食える」の危険 多くのカビ毒は症状がすぐに表れない
カビの毒性に関する意識はなかなか変化しない
人々のカビへの対応に変化を感じるようになったのは、ここ20年くらいのことだろうか。「このカビはなにか健康被害を及ぼすカビですか」とよく聞かれるようになった。人体に健康被害を及ぼす代表は食品と住宅だが、食品と住宅では、カビによる健康被害がまったく異なる。
食品のカビによる被害は、食べてしまった時のカビ毒だ。一方、住宅のカビによる被害は、胞子を大量に吸い込んだ場合のアレルギー性の疾患と、体内でも生育するカビが起こす真菌症である。住宅に生えたカビは、人が舐めたりしない限り体内に入るわけではないから、カビ毒の有無は関係ないのである。
20年ほど前までは、年輩の主婦の方々は大半「餅のカビは食べても大丈夫」と思っていた。カビが生えた餅は酸っぱくなって味は落ちるが、毒性という点では大したことはないと考えられており、カビの部分を刃物で削って食べれば大丈夫との意見が、戦前から一般的だった。今日では、ミカンも餅も、カビの周辺を取り除くだけでは安全とは言えないと、研究者の間では考えられている。
一方で、後ほど詳述する戦後の黄変米事件や、カビ毒による七面鳥大量死事件以来、専門家の間では、食品におけるカビ毒の有害性が広く認識されるようになった。私もカビの毒性について質問されると、「カビの生えた食品は食べてはいけない」と言ってきた。
しかし、カビの毒性に関する市民の意識は、なかなか変化しなかったのである。食べてもおなかが痛くなるわけではないカビの慢性毒性を、市民に理解してもらうのは簡単ではなかった。それでも、冷凍保存などが普及し、カビの生えた食品が減少するとともに、市民のカビに対する見方は次第に厳しくなっていった。
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