名君?暗君?「徳川慶喜」強情だけど聡明な魅力

将軍にはなりたくないのに期待されてうんざり

当時の状況や周囲の期待と複雑な運命を背負わされていたことを思えば、慶喜が「将軍になりたくない」とこぼすのも当然かもしれない。父の個性が強烈だったがゆえに、自身が注目されることにも飽き飽きしていた。

一方的に次期将軍候補のキーマンとして扱われた慶喜。のちに慶喜を支える一橋派で、越前国福井藩16代藩主の松平慶永から手紙を受け取る(安政5<1858>年4月9日付)。文面で海防について意見を求められると、慶喜は翌日にすぐ返事を出している。

「当今の形勢について定見がない」

私の知ったことか、好きにしろ――。そんなふうにも聞こえるが、一挙手一投足に注目されれば、言動にも慎重になるというもの。何を言っても、誰かに政治利用されてしまうのを恐れたのだろう。

安政の大獄でも頑固さを発揮

他人の思惑には動かされない。そんな慶喜の頑固さは、1858年(安政5年)、大老の井伊直弼による、尊王攘夷派への弾圧「安政の大獄」でも発揮された。

隠居処分が下され、蟄居生活となった慶喜。理由らしい理由はなく、父の斉昭が尊王攘夷に熱心だったために、警戒されたにすぎない。理不尽な仕打ちに対して、慶喜は極端な態度でその命令に従うことにした。

昼間も夜も雨戸をしめた慶喜は、二寸ばかりの竹を雨戸のところどころに挟んで、わずかな光を得るのみだった。あえて月代もそらず、髭も伸び放題にしていたという。完全にあてつけだが、一方的に寄せられる期待に応えるのを嫌がったように、理不尽な弾圧に対しても、慶喜は慶喜なりのやり方で抵抗を示したのである。

しかし「強情公」とまで呼ばれた慶喜も、時代の流れにあらがうことはできない。慶喜は将軍として、薩長をはじめとした倒幕勢力の矢面に立たされることになるのだった。

第2回につづく)

【参考文献】
徳川慶喜『昔夢会筆記―徳川慶喜公回想談』(東洋文庫)
渋沢栄一『徳川慶喜公伝 全4巻』(東洋文庫)
家近良樹『徳川慶喜』 (吉川弘文館)
家近良樹『幕末維新の個性①徳川慶喜』(吉川弘文館)
松浦玲『徳川慶喜 将軍家の明治維新 増補版』(中公新書)
野口武彦『慶喜のカリスマ』(講談社)

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