「縮小する日本市場」に中国企業が殺到する理由 新たな可能性が広がりつつある日中企業の連携

拡大
縮小

2018年に日本に進出した、3Dカメラ関連サービスを提供する3DNestの技術は、大塚家具のバーチャルショールームに導入され知名度を上げた。住宅メーカーの大倉は自社のスマートハウスに中国のIoTプラットフォーマーであるトゥーヤー(塗鴉科技、2021年4月に米国上場)のサービスを取り入れている。

また、ニトリが自社の商品検索アプリで採用したのは、欧米企業のサービスではなく、アリババがEC事業で蓄積した商品検索と在庫管理のノウハウを提供するクラウドサービスである。無人店舗を展開しようとしているダイエーも中国のスタートアップであるクラウドピック(雲拿科技)の技術を導入している。

このように従来の日本企業の中国進出一辺倒ではなく、現在、中国企業、とりわけデジタル分野のテック企業が日本に進出し、日本企業は中国発のデジタルイノベーションの多くを活用するようになっている。つまり、日中企業が相互進出の様相を帯びてきており、日中企業連携の新たな可能性が広がっている。

互いの強みを活かす連携を

日本の高度経済成長モデルはかつて中国の“先生”だったが、今や、互いに刺激し合い、学び合う関係へ変貌しつつある。そうした新しい関係の中で、イノベーションが生まれてくる可能性も大きい。

日本は、少子高齢化や人口減少、防災などの問題を抱えており「課題先進国」とも言われている。また、日本の優れたモノ作りを支えているのは、いいものにこだわり実直に技術を磨き継承していく「匠の精神」であり、日本には時間をかけて事業を継承拡大してきた創業100年を超える「百年企業」が多く存在する。

こうした日本の特徴に対し、「テクノロジーの社会実装」や「スピード感」、「起業家精神」などが中国の特徴だと言える。中国では「議論する前にまずやってみよう」という機運が高く、それがスピード感のあるテクノロジーの社会実装を実現している。また、時間をかけるよりスピード重視で成功を狙う傾向も強く、ベンチャー企業を次々と生み出しているが、多産多死であることも事実だ。

日中両国は、国民性や気質、イノベーションやビジネスに対する考え方などが異なるからこそ、相互補完的な関係で互いの長所を活かしながら、事業共創の新しい局面を切り開くことができると考える。

日本企業が中国のプラットフォーマーと連携し、中国市場の開拓に成功した事例はすでに数多くあるが、日中企業連携による日本市場および第三国市場の開拓は新たな試みだ。日中の企業が双方の強みやいい部分を学び合いながら、ビジネスチャンスを探っていく姿勢が今後ますます求められるだろう。

趙 瑋琳 伊藤忠総研 産業調査センター 主任研究員

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チョウ イーリン / Weilin Zhao

中国遼寧省出身。2002年に来日。2008年東京工業大学大学院社会理工学研究科修了、イノベーションの制度論、技術経済学にて博士号取得。早稲田大学商学学術院総合研究所、富士通総研を経て2019年9月より現職。情報通信、デジタルイノベーションと社会・経済への影響、プラットフォーマーとテックベンチャー企業などに関する研究を行っている。論文・執筆・講演多数。著書に『BATHの企業戦略分析―バイドゥ、アリババ、テンセント、ファーウェイの全容』(日経BP社)。

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