米国に対抗、中国パートナーシップ外交の正体 国ごとにランク付け、同盟関係と何が違うのか

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日本とは、1998年に友好協力パートナーシップを結んだが、2006年に戦略的互恵関係という表現で合意している。交渉にあたった日本の外務省幹部は「パートナーシップという言葉を使うのは中国の作ろうとしている秩序の中に入るような印象となるので、あえてまったく別の概念と言葉を持ち出した」と話している。

また、アメリカとの関係について中国は「新型の大国関係」という表現を使っている。

そして、ASEANの例が示すように、中国側の判断でこの表現が格上げされることもある。外交関係をランク付けするという中国の発想は、かつての王朝時代に皇帝(天子)を頂点とする「中華」が中心にいて、その外側に「朝貢国」、さらにその外に「夷狄」が同心円状に存在するという冊封体制や中華思想を連想させるものがある。

パートナーシップ外交が持つ戦略性とは

肝心なことは、現実の外交の世界においてパートナーシップがどれほどの意味を持っているかだ。同盟関係には共通の価値観や政治制度を持つなどの基盤があり、安全保障分野の比重が大きいとはいえ、外交や経済、政治など幅広い分野で連携し、有事の際には軍事力を提供する。

一方、中国のパートナーシップは、相手国の国家体制などは無関係であり、親中とは言えない国とも結んでいる。従って、これまではどちらかというと経済的利益追求のための手段の1つという程度と受け止められ、「日米安保条約などのような同盟関係と異なり、パートナーシップ関係となったからと言って、それに付随する協定や条約がない限り、何の義務も生じない、形ばかりの関係になっている」(日本外務省の幹部)と評価されていた。

ところが、バイデン政権になって活性化した中国のパートナーシップ外交には、今までにない戦略性があるように見える。イランとの合意は、核合意に対するアメリカの動きを牽制するだけでなく、イランを中国寄りに引き寄せるための外交だ。

ASEANへの働きかけも、南シナ海や東シナ海で米中の緊張が高まりつつある中での動きだけに、やはりアメリカに対する牽制にもなる。ASEAN諸国にアメリカと中国のいずれをとるのかと迫る意味も込められている。

日米豪印のQUADなど、アメリカが西側諸国との同盟関係を修復し、中国に対する包囲網を構築し始めていることに対抗し、これまでビジネス色が強かった中国のパートナーシップ外交を安全保障戦略にリンクさせ始めてきたと言えそうだ。

もちろん、こうした中国流の外交が直ちに世界各地で展開できるとは思えない。しかし、ありとあらゆる面でアメリカ中心の国際システムを否定し、中国独自の新体制構築を進めようとしている中国の国家戦略の中にこのパートナーシップ外交を位置付け、次なる戦略を動かし始めたことは間違いなさそうだ。

薬師寺 克行 東洋大学教授

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やくしじ かつゆき / Katsuyuki Yakushiji

1979年東京大学卒、朝日新聞社に入社。政治部で首相官邸や外務省などを担当。論説委員、月刊『論座』編集長、政治部長などを務める。2011年より東洋大学社会学部教授。国際問題研究所客員研究員。専門は現代日本政治、日本外交。主な著書に『現代日本政治史』(有斐閣、2014年)、『激論! ナショナリズムと外交』(講談社、2014年)、『証言 民主党政権』(講談社、2012年)など。

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