仏名門ENA廃校に思う「真の指導者」育成の至難 本来の目的である社会の不平等は解消されず
とはいえ、特権エリートは権力と金を握っており、圧倒的に有利だ。その他のグランゼコールにもENA同様の課題があり、フランスのエリート養成教育改革は入り口に差し掛かったにすぎない。
例えば、現在レバノンに逃亡し国際指名手配中の日産自動車元会長ゴーン被告は、公立高等教育機関の理工系グランゼコールのエコール・ポリテクニークとその学校の成績優秀者だけが行くパリ国立高等鉱業学校で指導者教育を受けた人物だ。
これらトップクラスのリーダーを養成する学校の教育理念には、リーダーの行動規範として19世紀初頭に登場した「ノブレスオブリージュ」(高貴な人の義務)が強調されている。もともとは「貴族はそれなりの社会的義務を負うべき」という考えだが、転じて特権階級に属する者は公益性を重んじ、自発的に無私の奉仕的行動をとるべきという不文律だ。
そんな教育を受けたゴーン被告が自分の巨額報酬を隠匿し、特別背任行為を行い、ヴェルサイユ宮殿で貴族気取りのパーティーを開く姿に私の友人で、ポリテクニーク卒業生のフランス人は「恥ずべき男」と眉をひそめている。ノブレスオブリージュのかけらも存在しない。
フランスにはリーダーの行動規範とは別に大革命で特権階級を次々に処刑した平等主義もある。だが、フランスにはゴーン被告のみならず、階級の中身は違ってもフランスの階級社会は続き、今でも富裕層への富の集中度は英国を凌いでいる。富裕層への一般市民のネガティブな感情は今も常に渦巻いている。
私が取材した限り、ゴーン被告に同情するフランス人はいない。大手コンサル会社管理職の男性は「自分が特権階級だからといってフランスやアメリカの大統領に助けを求めたのは許せない」とも言っていた。
リーダーのスキャンダルに事欠かないフランス
国の中枢を担ってきたリーダーやエリートの不正も目立つ。
ENA出身で2019年に他界した故シラク元大統領は、パリ市長時代の職員架空雇用疑惑で公金横領と背任の罪でパリの司法当局に起訴され、執行猶予付きの有罪判決を受けた。
ENA出身ではないが、シラク氏の後に大統領に就任したサルコジ氏もスキャンダルには事欠かない。大統領選での選挙資金の違法会計処理を行った疑惑では、捜査の司法妨害で今年3月、執行猶予付きの禁錮3年の有罪判決を受けている。
最近では新型コロナウイルス対策で大勢の会食が禁じられている中、1人6万円支払う違法な高級料理会食にオルトフー元内相が参加していたことが発覚した。彼はシアンスポの卒業生だ。
つまり、特権エリートたちの行動規範やモラルの低下が問われているのに、その本質には触れられず、マクロン氏は来年の大統領選での再選を念頭に得点稼ぎのために形だけの公約を実行しようとしているとの批判もある。「ENAはマクロンの野心の犠牲者」との批判もある。
フランス最大の政府基礎研究機関、仏国立科学研究センター長のリュック・ロバン氏は「ENAだけの改革では何も変わらない。今回の改革だけでは社会的格差を是正するには十分ではない」と批判している。
激変する社会や世界情勢に対応するリーダー育成は世界中どこでも喫緊の課題だ。ただENAを巡る議論は、世界から一目置かれるエリート養成の仕組みを持つフランスでも、それが容易ではないことを示している。
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