仏名門ENA廃校に思う「真の指導者」育成の至難 本来の目的である社会の不平等は解消されず

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フランスでは、管理職者をカードルと呼び、会社でも別採用され一般職とは分けて考えられている。叩き上げという発想は乏しく、グランゼコール卒業生は係長クラスからスタートするケースが多い。ただ、フランスは国営企業の民営化がこの20年間で進み、民間企業では実力主義なためにグランゼコールの卒業生でも生き残るのは難しくなっている。

日本や英国と違い経験主義ではない理性主義のフランスでは、頭脳明晰であれば若くてもトップリーダーになれる。シアンスポ、ENAを出て投資銀行のマネジング・ディレクターをしていたマクロン大統領は39歳の若さで議員経験もなく、いきなり財務相から大統領になった。

育ちのいい裕福な家庭環境で育った上流階級の子弟がENAを卒業し、短期間で高級官僚や政治家、大臣、企業トップになる。エナルクは「新たな貴族」と揶揄されている。そのため、彼らが机上で練る政策は庶民の目線からかけ離れているというのが黄色いベスト運動家からの批判だ。それが「マクロン政権は企業や富裕層寄りの政策ばかり」との批判につながっている。

庶民は抗議デモで訴えなければ不利益を被るだけだと、黄色いベスト運動は2018年11月から2年にわたり続けられてきた。中央政府と地方市民の認識の乖離をうんでいるのは、エリート層、富裕層に偏った政治家や官僚であり、その多くがENA出身者だということで、ENAに批判の矛先が向けられた。

マクロン氏も認めている「時代の変化がもたらした社会の多様性」に上級公務員の意識を合致させるため、安泰な地位の生涯保証も行わない方向にリセットする必要性が生じたというわけだ。

そのためには、現在のENAの施設を受け継ぎながらも、受験方法を改善し多様な人材を受け入れ、広範囲な実践訓練も行い、マクロン氏が強調する「共和国の実力主義」に沿ったカリキュラムに変えるとしている。さらに卒業後の公官庁の採用慣習を変え、エリートコースを保障するものではなくなるともいっている。

だが、フランスの週刊紙レクスプレスは「改革の内容にはグレーな部分が多い」と指摘。内容的にはこれまでのENAの卒業生のステータスは守られるということで安堵の声も聞かれる。

的外ればかりではないマクロン改革

マクロン改革はすべて的外れだったわけではない。例えば国鉄(SNCF)改革は、労働組合が激しく抵抗したが、その国鉄職員は終身雇用が保障され、50歳定年も可能で有給も28日間(民間25日)という特権を持っていた。実は50歳定年の権利は蒸気機関車時代に鉄道員が重労働を理由に獲得したものだ。

SNCFの負債は450億ユーロ(約5兆9000億円)にのぼり、公的資金の投入も10年前より22%増加していた。実際、改革が断行されたことで、鉄道事業への民間参入による運営多様化が進む中、ウイゴーなど格安料金を提供する会社が登場し、移動は一挙に活発になり、批判は消えている。

つまり、既得権益にしがみついているのは特権エリートだけでなく、労働者側にもあったということだ。

次ページとはいえ、特権エリートが圧倒的に有利
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