スクープ!住友重機械が機関銃生産から撤退へ 日本の防衛産業から撤退が相次ぐ切実な事情

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比較的売り上げを維持できているのは日本製鋼所だけだ。だが、先に述べたように戦車・火砲の定数は半減する。また同社の開発したRWS(リモート・ウェポン・ステーション)は海自には採用されたが、陸自の新型装甲車には採用されないと見られている。

防衛予算が大きく伸びることがなく、装備の高度化によって維持整備費用が装備の調達費を上回っている。しかも少子高齢化で将来の自衛隊の縮小は明らかだ。厳しい国際市場で戦うことなく、国内の自衛隊、海保、警察などが顧客である国内火器メーカーは価格が海外の製品の5~10倍であり、性能的にも劣ることが多い。

そして製品の多くはライセンス品であるが、先述の住友重機のように品質が劣ることが多い。ミネベアミツミが生産していた9ミリ拳銃でも2000発程度でフレームにヒビがはいるなど、オリジナルのSIG社の製品より耐久性は1桁低い。また日本製鋼所のライセンス製造していた牽引式155ミリ榴弾砲も、砲身の精度は高いものの、オリジナルよりも作動不良が多い。

監督官庁は再編を促せず、企業側も決定を先送り

国内で企画される火器は少なく、設計者が設計に携わるのは一生に1~2回程度でしかない。また売り上げが小さいために基礎研究費も大して出せない。

本来なら防衛省や経産省が音頭を取って業界再編を促すのが望ましかった。1社に拳銃から火砲まで任せれば、生産性が上がり、コストが低減でき、また開発の機会も増えたはずだ。

無論企業側にも問題がある。将来性がなく、いつかは事業として成り立たないまでに売り上げ規模が減り、開発能力を向上させることもなく、新たな設備投資もできないのにいつまでも防衛産業から撤退できずに、決定を先送りしてきた。これは官民ともに当事者意識と能力の欠如だと筆者は思う。

今後も外国よりも高いコストで、低性能、低品質の装備を作り続けた揚げ句に、防衛産業から手を引く企業は増えていくだろう。

清谷 信一 軍事ジャーナリスト

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きよたに しんいち / Shinichi Kiyotani

1962年生まれ、東海大学工学部卒。ジャーナリスト、作家。2003年から2008年まで英国の軍事専門誌『ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー』日本特派員を務める。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関Kanwa Information Center上級アドバイザー、日本ペンクラブ会員。東京防衛航空宇宙時評(Tokyo Defence & Aerospace Review)発行人。『防衛破綻ー「ガラパゴス化」する自衛隊装備』『専守防衛-日本を支配する幻想』(以上、単著)、『軍事を知らずして平和を語るな』(石破茂氏との共著)など、著書多数。

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