團十郎復活 六十兆の細胞に生かされて 市川團十郎著 ~強靭な精神力、行動力 すべて歌舞伎のために

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團十郎復活 六十兆の細胞に生かされて 市川團十郎著 ~強靭な精神力、行動力 すべて歌舞伎のために

評者 仲倉重郎 映画監督

 2004年5月、11代海老蔵襲名披露公演の最中に白血病で倒れ、足かけ6年の闘病の末、09年1月完治し舞台に復帰した。その闘病のさまが実に具体的に記されているので、白血病がどんな病なのか、どんな治療をうけるのか、闘病の大変さがよく伝わってくる。

だが本書の眼目はそこにあるのではないようだ。12代市川團十郎という歌舞伎の大名跡が、死に直面した6年の間に、何を考え、何をしてきたか、その心と行動の記録なのである。

6年の間に3度入院し、通算416日の入院生活を送る。だが、2度の大手術に耐え、09年1月、「完全復活」する。その合間にいくつもの大きな舞台をこなし、3度のヨーロッパ公演まで行っている。闘病にかける強靭な精神力、行動力、それはすべて歌舞伎のためである。伝統芸能の屋台骨を支えねばならぬ者の「矜持」であろう。

07年3月、2度目の入院後のパリ・オペラ座公演では「勧進帳」と「紅葉狩」を上演し、フランスの芸術文化勲章コマンドゥールを受章した。

團十郎の「紅葉狩」といえば、1899(明治32)年、9代團十郎と5代菊五郎が演じた映画『紅葉狩』のフィルムが現存している。わずか6分の作品だが、一昨年、映像作品として初めて重要文化財になった。そういう芸がヨーロッパに伝わり評価されるのがうれしい。

09年1月、白血病が完治しての復帰公演では「象引」を上演した。これは、3度目の入院の時から考えていた30年来の念願の演目で、初代の型に戻しての演出である。病院では考える時間がたっぷりあったからというが、12代目は実に精力的である。役者であるだけでなく、脚本家であり演出家であることが、大名跡の役割なのだ。それが伝統芸能の強さであろう。

いちかわ・だんじゅうろう
歌舞伎俳優。1946年生まれ。第11代市川團十郎の長男。日本大学芸術学部卒業。53年、市川夏雄として初舞台を踏み、続いて、6代市川新之助、10代市川海老蔵を襲名。85年、12代市川團十郎を襲名。日本藝術院賞、眞山青果賞大賞、芸術祭賞演劇部門優秀賞、菊池寛賞など受賞多数。

文藝春秋 1550円 223ページ

  

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