退職者による秘密漏洩「泣き寝入り」で良いのか

楽天モバイル社員の逮捕事件は人ごとではない

この点、2013~2014年に発生した、家電量販店エディオンの元幹部社員をめぐる情報流出事件が参考になる。この事件では、元幹部社員がエディオンから住宅リフォームに関する営業秘密を持ち出し、転職先の上新電機に渡したとされる。

元幹部社員は2015年1月に不正競争防止法違反で懲役2年、執行猶予3年、罰金100万円の判決を受け、有罪が確定している。情報流出先の上新電機は書類送検されたものの、不起訴処分となった。

そこでエディオンが2016年、持ち出された営業秘密を使って構築されたソフトの使用差し止めと約50億円の損害賠償を上新電機などに求める民事訴訟を起こした。1審の大阪地裁は、上新電機による営業秘密の不正使用を認定し、1800万円の損害賠償の支払いを命じた。

エディオンはなぜ勝訴できたか

エディオンが勝訴した理由の1つは、刑事事件の捜査の過程で保管されていた証拠物を、上新電機側に返却されてしまう前に差し押さえ、民事事件の証拠として利用できたからだ。だが、ここまでの対応をしなければならない点にこそ、日本の司法制度の欠陥があると言わざるをえない。

日本の裁判では、原告の立証責任が極めて重い。裁判で使う証拠は合法に入手しなければならないが、情報流出先の企業のサーバー内にある情報を、合法的に入手する方法は強制捜査権を持つ捜査当局の押収証拠に頼らざるをえない。

一方、アメリカには相手方に強制的に証拠を開示させる「ディスカバリー」制度があり、証拠開示を求められたら、メールから社内文書まで、ありとあらゆる証拠を開示しなければならず、断ったり隠したりすればそれ自体が罪に問われる。

アメリカの弁護士は「(日本には)ディスカバリーもない中でいったいどうやって証拠を集め、立証するのかわからない」という疑問を持つのだという。イギリスにもディスカバリーの制度があり、イギリス以外の欧州諸国も裁判官による文書提出命令の制度が機能している。

日本では裁判官に文書提出命令を出してもらうハードルが極めて高いうえ、経団連がディスカバリーの導入に強く反対している。井上弁護士は「ディスカバリーが制度として導入されると、企業のデータ保存義務が格段に重くなり、企業のコストアップにつながる。

ただ、アメリカでビジネスを展開している大企業は、すでにディスカバリー対応をしている。経団連がディスカバリーの導入に反対するのは、コストアップが理由ではなく、日本企業が訴えられるケースを想定し、日本企業が被った被害回復が図れない点には目を背けがちなため」と話す。

知財立国をうたう一方で、営業秘密漏洩の被害企業の救済がお粗末な日本。このうえは官邸主導でしか日本企業の知的財産を守ることができないのであれば、これほど嘆かわしいことはないだろう。

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