退職者による秘密漏洩「泣き寝入り」で良いのか 楽天モバイル社員の逮捕事件は人ごとではない

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過去10年間に営業秘密侵害罪で刑事事件となった報道事例をみると、当該社員の検挙に至るのはごく一部で、流出先の法人が刑事責任を問われることは非常に少ない。2014年に流出し、2015年に事件化した光洋自動機の事件では、情報流出先の会社が罰金刑を受けたが、これは例外的なケースだ。

世界各国の競争法に詳しい井上朗弁護士は、「日本企業は営業秘密持ち出しに気づいても、捜査当局への通報を躊躇する傾向にある。捜査当局に通報することは、持ち出されるような脆弱なセキュリティ体制であることを公表するようなものと考えるからだ。その結果、持ち出した本人が刑事責任を問われることがなければ、追随する従業員が出て再発を繰り返すことになる」という。

欧米と比べて甘い不正管理対策

日本企業の多くは欧米企業に比べて従業員の不正に対する管理が甘く、管理にかけるコストも少ない。外部からのシステムへの侵入を防ぐため、従業員に対して「不審なメールは開けるな」という教育をしたり、重要情報へのアクセスを制限するようになったとはいえ、欧米に比べればまだ甘い。

処遇に不満を持つ従業員が、在職中に持ち出した営業秘密を手土産に、競合他社に転職するケースは後を絶たない。

転職先の企業が、元の勤務先から営業秘密を持ち出している人物であることに気づかず雇用してしまい、事件に巻き込まれるケースもある。だが、その場合は持ち出した営業秘密を転職先が利用しなければよく、流出元の企業としても被害はない。

阻止すべきなのは、転職先が持ち出しを手引きしているケースだ。盗まれた企業としては当然、盗んだ本人、盗ませた企業ともに刑事責任を負わせ、民事でも損害を賠償させたいと考える。持ち出させた事実が発覚し、刑事および民事上の責任を問われうるとなれば、転職先企業も中途退職者の採用に慎重になるはずだ。

ところが、日本では営業秘密を持ち出させた企業の責任を問うハードルが刑事、民事ともに極めて高い。

過去の事例を見ても、持ち出した本人が転職先の指示で営業秘密を持ち出したことを認めていても、よほどのことがない限り、転職先の企業はその事実を認めない。

「営業秘密を持ち出しているとは知らずに雇った」「持ち出してきた秘密を当社は使っていない」と主張する。その主張を覆す立証上のハードルが、日本は諸外国に比べて著しく高いのだ。

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