五輪開会式の演出案流出で見落としがちな本質

組織委が文春に抗議も最大の問題は内部にある

組織委の内部から情報が漏れることがそもそもの問題だ(写真:Kazuhiro Nogi/AFP/Bloomberg)

『文春オンライン』と『週刊文春』がスクープ記事として発表した東京五輪開会式の演出案に関連して、東京五輪・パラリンピック組織委員長の橋本聖子会長が「報道の自由を制限するものではない」としながらも「業務妨害にあたると判断した」として発売中止と回収を要求しました。『週刊文春』はこの要求を拒否しています。

この問題で橋本会長が声を荒らげる理由は開会式の演出案に数千億円レベルの経済価値があるからです。IOCが与えた放映権に基づき世界中のテレビが放映する、かなりの視聴者を集めるイベントのネタバレは主催者から見れば営業妨害以外の何物でもありません。

実際には今回はボツになった案が流出したわけですが、仮に本当の開会式の演出案がリークされてさまざまなサプライズ演出が事前にニュースになってしまい、それで視聴者が「だいたいわかったしこの先もわかっているから」とチャンネルを変えてしまったらどうなるでしょうか。いちばん高い放映権を買っているアメリカのNBCがそのことで怒って訴訟を起こし賠償が発生したら誰が責任をとらなければならないでしょうか。

五輪委と文春双方に理がある

これと似た営業妨害の話はビジネスの世界にはたくさんあります。通販会社の見込み客リストが持ち去られたとか、携帯電話会社を辞めた営業社員が前の会社の重要な営業情報を持ったままライバル会社に転職したとか、そういったことが起きるたびに経営者はカッカして怒り心頭に発するものです。

製鉄会社の秘密情報が韓国の製鉄会社に盗まれて、さらにその情報が中国の製鉄会社に盗まれたケースがありましたが、それでも韓国のメーカーは中国のメーカーを訴えました。こういった場合、賠償金が取れるケースもありますが、流出経路がわからなければ賠償金が取れずに終わるケースもあります。

今回の東京五輪のケースに戻れば、五輪の組織委から見れば営業妨害でも文春から見れば公益性のある報道です。双方に理のある話であり、落としどころのある話でもないでしょう。

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