内沼さんはこう話します。
「出版流通には、確かに売れなかった本のほとんどが返品できるというメリットはありますが、書店での本の利益率はわずか20%前後。放っておいても本がどんどん売れていた時代はよかったのですが、現状では、書籍の販売だけで小さな書店が、東京の高い家賃を払って利益を出すのは、かなりハードルが高い。だから、ほかのものと掛け算して、収益源を複数、確保することが絶対に必要でした」
同様の発言は、代官山蔦屋書店の店長、上田元治さんとの対談でも聞きました。
「よく言われるのは、時間消費みたいなこと。この時間消費に対して、入場料をいただければいいのですが、そういうわけにはいかない。ビジネスとして成立するために、どこにおカネを落としていただくポイントを作るか、いつも悩んでいます」
このふたつの発言からわかるとおり、すでに書店業界は、本の販売だけでやっていくことは難しくなっていると考えたほうがいいでしょう。
逆に言えば、こういう状況だからこそ、1日1店舗のペースで書店がなくなっているのです。
そうした業界環境の中で、この2店舗が共通して行っていることがあります。ともにカフェなどのドリンクの提供を行っていること、イベントを数多く開催して書店という空間の価値を最大化していることです。
誰もやりたがらないことが、ビジネスになる
「B&B」の収益の柱のひとつがイベントです。オープン以来、毎日欠かさずイベントを開いてします(イベント情報はこちら)。しかし、大型書店でたさくんのスタッフがいる代官山蔦屋書店に対し、「B&B」のような、町の小さな本屋さんが毎日イベントをする負担は、比にならないはずです。
「イベントの計画を話すと、ほぼ皆、難しいと言いましたが、決心は揺らぎませんでした。大変でしたけど、ずっと継続できています。確かに手間はかかりますが、どこの書店でもほぼ同じ本が買える中、毎日のイベントはその日、『B&B』に来ないと体験できないコンテンツであり、本を買うお客様の集客にもつながるという点で、とても意味があると思っています。今では利益もしっかり出ていて、収益の柱のひとつになっています」
と内沼さんは胸を張ります。
このイベントの収益と、ドリンクの販売、店内にある本棚などの什器販売で、本業である書籍販売と合わせて収益が出るようになっています。
この話が示すように、誰が聞いても、面倒くさそうだなあ、とか、大変そうだなあ、と思うようなアイデアにこそ、ビジネスチャンスがあります。
しかし、そこには前提条件があります。実際に事業を進める人が、どれだけそこに情熱を注ぐだけの社会的意義を感じているか。どんな計画も、最初はビジネスとしてうまくいきません。それでも、そこに情熱を注ぎ、継続しているうちにオペレーションが改善し、さらにお客様に認知が広がって、徐々に収益化に近づき、ある点を超えると、収益が生まれるようになるのです。
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