フランス政府は2009年、豚インフルエンザ(H1N1)のワクチンについて、すべての国民に接種するのに十分な量を6億ユーロ以上費やして入手しました。ただ感染者数は少なく、死亡者数も数百人。ワクチンの大半が使用されず大量廃棄され、莫大な国費を無駄にした後味の悪い経験をしています。そのためワクチンへのイメージは良くありません。
調査会社Ifopがフランス陰謀説監視研究所(OCW)のために2018年に行った調査によると、「エイズウイルスは実験室で作成され、世界中に広がる前にアフリカでテストされた」という主張は、フランス人の32%が今も信じ続けており、フランス人の60%以上が「ワクチン開発で政府と製薬会社が共謀している」という説を信じていると指摘しています。
政府やメディアへの不信感が強いフランス国民
陰謀説に耳を傾けてしまう背景には、政府や既存メディアへのフランス国民の不信感の強さもあります。東日本大震災で福島第一原子力発電所の事故が発生したとき、パリの自宅で一緒に食事していたフランス人の友人、マルセル氏に「あなたは日本政府の発表を信じるのか? そうであれば、あなたはだまされている」と言われたことを鮮明に覚えています。
OCWは、マスメディアに対するフランス人の信頼度が低いことを指摘し「全体として、マスメディアは情報を正しく報じ、間違いを犯した時は正直に訂正している」と答えたのはわずか25%しかいなかったとしています。政府もマスメディアも信じないフランス人がSNS上の陰謀説に吸い寄せられている実態は理解できます。
一方、ワクチン接種推進派は、SNS上で陰謀説を批判する動きに出ていますが、あるサイトの運営者は陰謀説を流すグループから殺害予告を受けたといっています。ワクチン接種を積極的に受けたい、あるいは受けてもいいと思っている人が、世論調査で59%から伸び悩んでいるのは、ワクチンに対する警戒感の強さによるものだと筆者は感じています。
OCWの関係者の話では、オンラインのワクチン反対運動は、既存の権威や製薬会社への懐疑論に基づいている場合が多く、とくにフランスでさかんだと指摘しています。国民の間に広まる先行き不安やストレスで、ワクチン陰謀説は拡散する一方です。政府はワクチン接種の拡大に意欲を示していますが、一部の国民は陰謀説を信じており、集団免疫を作る次元までワクチン接種を進めるのは遠い道のりといえそうです。
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