「福岡5歳餓死事件」に見るカルト的手口の異様 オウム真理教の内側と重なって見える

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まさに骨までしゃぶりつくすような赤堀被告の所業だが、母親である碇被告もどうしてそこまで相手の指示に従順だったのか。

結果からすると、この母親は相手から逃れられない呪縛に陥っている。それはカルトにおける教祖と信者の関係もいっしょだ。極端に聞こえるかもしれないが、この2人の関係を置き換えると、かつて殺人まで犯したオウム真理教の内側と重なって見える。比較してみればよくわかる。その道筋と6つの共通点をみていく。

不安に駆り立てられた人を囲い込む

①不安と生きづらさ

2人の関係は、「ほかのママ友たちが悪口を言っている」と告げられたウソからはじまっている。言われた側は、突然のことに驚いたはずだ。しかも、真面目な性格だったのだろう。人に嫌われたくないという思いが、不安を駆り立てる。それまでの生活が、急に生きづらいものになる。

オウム真理教の場合は小さなヨーガ教室から始まり、生きることの辛さを説いた教祖の麻原彰晃(本名・松本智津夫)の著作に傾倒した若者たちが参集してくる。20世紀の終わり。バブル経済まっただ中。その時代を生きた者にしか理解し難いかもしれないが、現代とは明らかに違った空気が漂っていた。そこに不安も生まれる。

物欲にまみれたこの豊かさが本当の幸せなのだろうか。この幸せもいつまで続くか。このころに「幸福の科学」や「ワールドメイト」といった新興宗教が相次いで誕生してブームとなったことも、時代が後押ししたひとつの証だろう。

麻原も最初は、少なくとも表面上は信者に寄り添うようにして、人心を掌握していく。赤堀被告が「私は味方だ」と声をかけたように。

②情報の遮断と敵視

赤堀被告は「私は味方だ」と言って悪口をいうママ友を敵視させ、碇被告を引き離した。そうすると正確な情報にはアクセスできない。赤堀被告の都合のよいものだけになる。次に偽の浮気情報で夫婦の仲を切り裂き、離婚させて孤立させる。もはや赤堀被告の言葉を信じるしかない状況ができあがる。

オウム真理教は、富士の麓に巨大な教団施設を作って、信者を外界から遠ざけたことは周知の事実だ。社会とのトラブルを起こしながらも、悪いのは社会のほうだと敵視し、自分たちが優れ、虐げられているという都合のいい情報ばかりを共有する。内部の情報操作で教祖を神格化させていく。

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