「水没危機の町」が今迫られている大きな決断 アメリカの小さな町に押し寄せる増税地獄

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こうした事態を防ぐため、デア郡は約100万立方ヤードの砂をビーチ上に敷きたいとしている。工費は1100万〜1400万ドルとなる見通しで、およそ5年に1回の頻度で工事を繰り返す必要があるという。

エイボンに住宅を持つ住民十数人に取材したところ、多くが懸念しているのは工事費用の分担であることがわかった。オッテン氏の説明によれば、ビーチ沿いに物件を所有する人々は工事によって住宅が水没を免れるので、恩恵が最も大きくなる。しかし、工事は道路を守るものでもあるので、住民全体にも恩恵がある。

45%の増税になる可能性も

こうした恩恵の差を考慮して、デア郡は税率を2つに分けることを提案している。まず、道路の海側に物件を所有する人々には、資産評価額100ドルごとに固定資産税を25セント上乗せする。すなわち、45%の増税だ。一方、内陸側の住民に対する上乗せはその5分の1にとどまる。

ノースカロライナ州ローリーから3年前にエイボンに移住し、町の西側で住宅を購入した元検眼医のサム・エグルストンさんは、その5分の1の上乗せ税でも高すぎると言う。12号線はノースカロライナ州の州道なのだから、道路の保全費用は州が負担するのが筋、という立場だ。

エグルストンさんは、お上の対策としては、むしろ住民に転居費用を支給するべきだと主張した。そうすれば、少なくとも問題はそこで決着する。「大金をビーチに費やし続けるなんて、私には理解できない」とエグルストンさん。

オードリー・ファローさんの息子で漁業を生業とするマシューさんは、自分が生まれ育った町の今後に不安を募らせている。洪水に加え、別荘需要でつり上がる地元の不動産価格のダブルパンチにさらされ、エイボンでの暮らしはますます難しくなってきているという。

「自分の子どもには、すでにこう言い聞かせている」とファローさんは言った。「どこか別の場所に行きなさい、とね」。

(執筆:Christopher Flavelle記者)
(C)2021 The New York Times News Services

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