(第12回)金融危機が勃発し円高犬が目覚めた

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 中国人民元はドルに対して(中国の為替操作の結果として)ほぼ不変に保たれていたので、円は元に対しても増価したことになる。韓国ウォン、台湾ドルに対しても、円は著しく増価した。韓国、台湾のエレクトロニクス企業の大躍進は、こうした為替レートの変化によるところが大きい。それは、日本国内でのノートパソコンや薄型テレビの価格が1年間で半分になるような大幅な下落を引き起こした。09年になってからの消費者物価の下落は、これによる面も大きい。

このような円高が関連メーカーにとって大問題であることは事実である。そのため、「異常な円高」と言われることが多い。しかし、07年夏ごろまでの円安のほうが異常であったのだ。これまでも強調してきたように、アメリカにおける日本車の大躍進は、異常な円安によって引き起こされた面が強い。第9回の図で示したように、1995年を基点とする購買力平価で見れば、現在のレートも格別円高ではない。むしろ、まだ円安であると評価することもできるのである。

外貨準備で37兆円の損失が発生

急激な円高は、日本の輸出産業に打撃を与えただけでなく、日本の対外資産を減価させた。

損失が明らかになっているのは、外貨準備である。報道によると、09年度における為替評価損は、実に24兆円に及ぶ。08年度においても13兆円を超える損失が発生しているので、2年間で37兆円を超える損失が発生したことになる(私は08年5月に刊行した『円安バブル崩壊』の46ページで、「20兆円を超える評価損が外貨準備ですでに発生している可能性がある」と書いたが、実際の損失はそれを超えた)。

通貨の分散をしなかったというテクニカルな問題もあるが、そもそも、変動相場制の下で100兆円を超える巨額の外貨準備を持っていたことが異常である(変動相場制では、為替レートが需給を調整するので、本来は外貨準備はゼロでよいはずだ)。

巨額の外貨準備は為替介入の結果である。つまり、円安を必要とする産業構造が、こうした損失を生んだ基本的な原因なのだ。日本の対外資産も大きな損失を被った。愚かな経済運営のために、巨額の損失を被ったことになる。

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