親の「夜ふかし」が子供の健康に与える大問題 家族全員での「生活リズム」の見直しが必要だ

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少し長くなりますが、もう少しだけ解説をつづけさせてください。入眠が困難になると覚醒も困難になると書きました。これを専門的な用語で睡眠相後退症候群と呼びます。入眠困難と覚醒困難が慢性的につづく睡眠障害です。

この睡眠障害では夕方になると頭がすっきりとして調子が上がり、明け方近くに入眠することになります。一方で、学校や社会の活動開始時間である朝7時ごろには眠りが深くてまったく起きられません。学校社会に適した時間帯に眠り、起きる。このことが困難な状態です。

家族で早寝早起きの生活を

睡眠相後退症候群になると、生活リズムが周囲と合わないだけでなく、生命維持装置としての脳の視床下部機能に総合的な問題を抱えます。休養と活動の振幅(メリハリ)が低下する、いわば生命力の低下ともとれる現象があらわれてきます。

それが睡眠相後退症候群の小学生から高校生までの健康状態を調べたときに主訴としてみえてきた、朝の吐き気、気分の悪さ、頭痛・腹痛、めまいなどの自律神経失調症の症状です。

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実は、この自律神経症状はより深刻な症状の発症を知らせる警報です。放置しておくと、目にみえない体温調節、ホルモン分泌、エネルギー産生、免疫機能、協調運動、脳機能バランス維持などの不調和と機能低下を起こし、全身のだるさや無気力などたとえようのない不調としてあらわれます。

この睡眠相後退症候群こそが「不登校」の原因背景として世界で注目されているのです(Tomoda A, 1994 およびSivertsen B, 2013 およびHochadel J, 2014 およびHysing M, 2015)。

このような体内時計と学校社会生活リズムの不一致を、乳児期という人生のスタート地点で起こさせてはいけません。寝つきが悪いと感じたら、すぐに家族全員で早寝早起きの生活を実践しましょう。素質もありますが、寝つき不眠は家族の生活(環境的要因)が影響する可能性大の睡眠障害です。

三池 輝久 小児科医、小児神経科医

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みいけ てるひさ / Miike Teruhisa

1942年生まれ。熊本大学医学部卒業。熊本大学名誉教授。日本眠育推進協議会理事長。30年以上にわたり子どもの睡眠障害の臨床および調査・研究活動に力を注ぐ。2016年、熊本県玉名地域保健医療センターにて「子どもの睡眠と発達外来」を開設。著書に『子どもの夜ふかし 脳への脅威』(集英社新書)など。

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