3月施行「改正会社法」押さえておくべき点とは 取締役の報酬の決定方針の「透明性」を求めた

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次に、2つ目として、上場企業などの一定の会社では、取締役の個人別の報酬内容の決定方針、つまり、取締役それぞれの報酬の内容をどう決めるかの方針を取締役会で決定し、その内容の概要を開示しなければならないことになりました。なぜ、こうしたルールが新しく設けられたのでしょうか。

会社法上、取締役の報酬は、定款または株主総会で決定しなければなりません。取締役の報酬を定款で定める会社はまずありませんので、ほとんどの会社は株主総会で決定しているのですが、この場合、株主総会では取締役の個人別の報酬額を定める必要はなく、取締役「全員」の「総額」の「上限額」を定めれば足り、個人別の報酬額の決定は取締役会に一任してもよい、と考えられています。

つまり、「今期の報酬は、取締役Aさんには〇円、取締役Bさんには〇円……」などと株主総会で決議する必要はなく、「取締役全員に支払う報酬の総額は、年額で〇円以内とする」とだけ決議すれば足りるのです。

こうした取り扱いは、取締役の個人別の報酬額が明らかになることを避けたい等の理由から行われているものですが、裁判所もこうした取り扱いは会社法に違反しないと判断しており、こうした決議の仕方は上場企業で広く行われています。

そして、こうした取締役全員の報酬総額の上限を変更しない限り、取締役のメンバーがどれだけ変わっても、株主総会で改めて決議する必要はありません。したがって、取締役の報酬の上限額に関する株主総会の決議は10年以上変更していない、という上場企業も珍しくはないのです。

さらに、取締役の個別の報酬額は、取締役会からさらに代表取締役などに一任してもよく、実際にそのようにしている上場企業も少なくないのが現状です。

しかし、それでは個々の取締役がいくら報酬をもらっているのか株主にはわからないため、透明性に欠けるのではないか、という指摘が、以前からされていました。

「どう決定するのか」の方針を決議せよ

そこで、今回の改正では、さすがに取締役の個人別の報酬額を開示することまでは求めず、取締役の個人別の報酬の決定は、従来どおり取締役会や代表取締役に一任することは認めるものの、取締役の個人別の報酬内容をどう決定するのかの方針(決定方針)を、取締役会で決議しなければならないことになりました。こうした報酬の決定方針の義務のある会社は、すでに述べた社外取締役の選任義務のある会社と、監査等委員会設置会社になります。

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