今も放射性物質の不安「福島の漁師」厳しい現実 2月にも基準値を超える魚が水揚げされた

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「この間、大きな揺れがあっただろう」と彼は、2月13日に福島県と宮城県で震度6強を記録した地震のことについて触れた。気象庁では、10年前の地震の余震とみている。

「あれでタンクは大丈夫なのかな、と思ってたんだけんど、案の定、ひしゃげてたな」

湧き出る汚染水と増え続けるその処理水。東電は、あの地震によって福島第一原発の構内にある処理水保管タンクの53基にズレが見つかったことを公表した。ズレは最大で19センチ。処理水の漏洩はなかったとしている。

「だけど、また10年前と同じような地震が来たら、もうタンクはダメだ。保たねえ」

汚染水を処理したとしても、どうしても放射性物質のトリチウムだけは残る。あるいは他の放射性物質も混在している。それでも増え続ける処理水の海洋放出の検討を経済産業省は進めている。原子力規制委員会の更田豊志委員長も支持する。東電の試算によると、2022年の夏から秋には、タンクが満杯になるとされる。

菅義偉首相は、3月6日に福島の被災地を訪れ、処理水について「適切な時期に政府が責任をもって処分方針を決定したい」「いつまでも決定をせずに先送りすべきではない」と記者団に語った。

処理水を五輪後に海洋放出?

では、その「適切な時期」とはいつのことなのだろうか。

「東京オリンピックがあるっぺ。そのあとだろうと、このあたりでは言っている」

地元の漁師が言った。それで海洋放出となれば「魚は売れねえべ」とも言った。政府が復興のシンボルに掲げるオリンピックがひとつの転機となるかもしれない。

「そうしたら辞めるっぺ。放出といっしょに補償金が出るだろう。それで終わりだ。年寄りの漁師の本音だな。後継者もいないし、若い人も入ってはこない。そうしたら、辞めるしかねえべ」

豊饒の海を奪われて10年。なにも変わらないまま、漁師は陸にあがることを考えている。そこに「復興」などという言葉はない。

青沼 陽一郎 作家・ジャーナリスト

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あおぬま よういちろう / Yoichiro Aonuma

1968年長野県生まれ。早稲田大学卒業。テレビ報道、番組制作の現場にかかわったのち、独立。犯罪事件、社会事象などをテーマにルポルタージュ作品を発表。著書に、『オウム裁判傍笑記』『池袋通り魔との往復書簡』『中国食品工場の秘密』『帰還せず――残留日本兵六〇年目の証言』(いずれも小学館文庫)、『食料植民地ニッポン』(小学館)、『フクシマ カタストロフ――原発汚染と除染の真実』(文藝春秋)などがある。

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