一昨年のミルクボーイが、いかに圧倒的だったかがわかると思う(2位のかまいたちに、何と21点もの差をつけている)。ちなみに昨年のマヂカルラブリーは、歴代の優勝者の中で、決勝の偏差値が唯一60を切っている(決勝は649点で2位。1位はおいでやすこがの658点)。
「ミルクボーイの圧倒的な漫才から、どう差別化するか」――これが、昨年のM-1に向けて、出場者だけでなく審査員、ひいては視聴者も抱いた最大の関心事だったろう。結果として、体技のマヂカルラブリーと、歌を前面に出したおいでやすこがの攻めたネタが高く評価された。逆に、緻密に構成された「コント漫才」で、ある意味M-1の王道的ネタに見えた見取り図(の1本目)は、彼らとの比較で損をしたかもしれない。
この3組が最終決戦に残り、そして体技を前面に出したマヂカルラブリーが優勝したことで巻き起こったのが、記憶に新しい「漫才論争」である――「マヂカルラブリーは果たして漫才なのか?」。
錦鯉の「ロー・コンテクスト」な漫才
それはともかく、昨年のM-1が、以上のような流れの中で、全体的に複雑でハイ・コンテクストな印象を与えたはずだ。そして、そんなM-1の4位だったのが、錦鯉だったのだ。
見取り図(4番目)、おいでやすこが(5番目)、マヂカルラブリー(6番目)が出終わった後、9番目に登場した彼らの漫才は、開口一番、こんなやり取りから始まった。
- 長谷川「こ~んに~ちは~!」
- 渡辺「うるせえんだよ」
- 長谷川「一文無し、参上!」
- 渡辺「みっともねぇよ」
この瞬間、ハイ・コンテクストな場の空気が、一気に「ロー・コンテクスト」に緩んだ感じがしたのは、私だけではないだろう。そして、この空気の高低差こそが、現在の錦鯉の人気に帰結している最も大きな要因と思うのだ――「何か難しい印象の回だったけど、錦鯉だけ、理屈抜きにバカバカしく、面白かった!」。
では次に、錦鯉のネタ自体を、さらに深く見ていきたい。
昨年のM-1で彼らが披露したのは、「長谷川がパチンコ『CRまさのり』になる」というネタだった。また、3月2日にテレビ朝日で放送された『ネタ祭り!2021春!!』で披露したのは「長谷川がサファリパークに飛び出して、ヌーの大群にもみくちゃにされる」というネタ。
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