東北被災地の霊体験に見る「死との向き合い方」 「幽霊」乗せたタクシー運転手の証言に思うこと

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金菱さんはこう振り返ります。

「当時のゼミ生・工藤優花が、毎週被災地・石巻(宮城県)に通い、客待ちのタクシー運転手100人以上に声をかけ、得た証言です。いやいや、何かの見間違いなのでは……で片づけられなかったのは、“幽霊”を乗せ実車メーターに切り替えた記録や、“幽霊”を乗せた結果、無賃乗車扱いとなった記録などが裏付けとしてあったためです」

これは一体どういう現象なのか。金菱さんが考える中、別のゼミ生・小田島武道さんがある取材をしてきました。

石巻市内で、仮埋葬という形で土葬した672もの遺体を、遺族の要望で掘り起こし、火葬した葬儀会社の話でした。

東日本大震災では、沿岸部の火葬場が津波により水没、使用不可に陥ったほか、被害の少なかった内陸部や他県の火葬場に搬送しようとしたところ、道路の寸断やガソリン不足が起き、土葬せざるを得なかった現実がありました。しかし時間が経過し、土葬ではあまりにもかわいそう、火葬で送り出してあげたい、遺骨を先祖の墓に入れたい、という要望が増え、掘り返すケースがありました。

葬儀会社の人は嫌な顔ひとつしなかった

小田島さんは聞き取り取材をこう振り返ります。

「仮埋葬から掘り起こされたご遺体の状態は、想像をはるかに超えていました。液体とも何とも区別がつかない物質が、棺から染み出しているものもありました。棺から取り出された納体袋の中には血液や体液が混じった液体があふれ、ヌルヌルになったご遺体からは腐敗臭が漂い、スタッフの身体に容赦なくこびりつきました。

(スタッフは)どんなに作業を進めても慣れることはありませんでした。掘り起こしが進むにつれて夏が近づき、気温の上昇と梅雨の激しい雨は、ご遺体の腐敗をさらに進行させ、作業をより過酷に追い込んでいったことを鮮明に覚えています。

しかし、葬儀会社の方は、いやな顔ひとつせず、黙々と、そして淡々と、ご遺体と向き合っていました。『ああ、こんなに汚れてしまって』とご遺体に語りかけるスタッフの方もいました。ご遺体の泥を丁寧に拭い、一人ひとりのご遺体に手を合わせ、火葬場へも、効率優先のトラックは使わず、霊柩車を模した車で丁寧に運んだんです」

“幽霊”を乗せたタクシー運転手の話。そして、仮埋葬された遺体の掘り起こしの話。まったく違う話ですが、金菱さんは、ある共通点があることに気づいたといいます。それは「死者への敬意」でした。

「工藤優花の取材で印象的な話があります。タクシー運転手への聞き取りを重ねる中、“幽霊”と言うと、『そんな風に言うな!』と怒る方がいたそうです。怪奇現象や心霊写真などのうに、恐怖を楽しむような言葉だと思われてしまったのでしょう。

そこで『亡くなられた方』『亡くなった方の魂』と死者への敬意を表すと、話をしてもらえたそうです。そして、話をしてくれた人の表情は、恐怖ではなく、穏やかに、そして笑顔で。中には『また機会があれば乗せたい』と言う人もいたことに、工藤自身が驚いていました」

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