国連事務総長選に立候補した「34歳女性」の正体

負け覚悟で立ち上がった「移民の孫」の狙い

国連の外ではアローラの知名度は低い。だが、前代未聞の出馬はやはり目を引く。

2期目を狙う現職に対抗して正式に出馬表明した初めての人物で、ミレニアル世代から登場した初めての候補者。実際に選出されれば、国連で初めての女性事務総長となる。7名の有力女性候補がグテーレスと争った2016年にも、初の女性総長が誕生するのではないかと思われた瞬間があった。

上司が放った冷淡な一言

国連事務総長に立候補した理由について、アローラはいくつかのポイントを挙げる。家族に難民だった歴史があること、マンハッタンでタクシーにはねられて入院したこと、そしてウガンダで目にした栄養失調の子どもの記憶だ。

インドとパキスタンが分離独立した1947年、アローラの祖父母はヒンドゥー教徒の多くがそうだったようにパキスタンからインドに逃れた。アローラの世界観は、こうしたことに影響を受けている。グテーレスに敗北する可能性について話を向けると、こんな答えが返ってきた。「難民に次の一手なんてない。だから、私にも次の一手なんてない」。

インド北部のハリヤーナー州で生まれ、医師をしていた両親と移り住んだサウジアラビアで幼少期を過ごした。9〜18歳はインドに戻り、全寮制の学校で学んだ。その後、カナダ行きを決め、ヨーク大学を優秀な成績で卒業。大手監査法人のプライスウォーターハウスクーパース(PwC)カナダに就職した。

内部財務管理を改善するポジションで国連に採用されたのは、2016年12月。ところが、国連に対する憧れはすぐさま幻滅へと変わった。「見かけはすばらしいが、実際には何かをやり遂げるのに必要な一貫性というものがない」とアローラは言う。

国連で働き始めてからわずか数週間後、仕事帰りにタクシーにはねられた。左膝骨折で病院のベッドに寝かされていたときに、こんな思いが浮かんできたという。「死ぬとき、私はこの世の中に何かを残せたと言えるだろうか」。

これが「大きな転換点になった」。

同年夏、仕事で滞在したウガンダで泥を食べる子どもに出くわした。「あのイメージが頭にこびりついて離れなかった」。ニューヨークに戻って上司にこのことを報告すると、おそろしく冷淡な言葉が返ってきた。これには愕然とさせられた、と当時を振り返る。

「『泥には鉄分があるからな』って。人生で初めて、本当に開いた口がふさがらなくなった」

この上司とのやりとりが、事務総長選に挑む「重要なきっかけのひとつになった」と話す。

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