ついに判明した「不当に低い保育士給与」の実際 過酷な労働環境のなか子どもを守れるのか

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「保育士は子どもの命を守るという大きな責任があるのに、低賃金という状況に置かれています。仕事に熱心な保育士ほどバーンアウトして辞めていくため、処遇が不安定な非正規雇用でもクラス担任をもつことが増えています。

国の調査で骨折事故が増えていますが、私たちが事故の相談を受けて弁護士も交えて検証してきたなかでも、知識や経験のあるベテラン保育士がいれば防げたはずの事故が最近、増えている可能性があり、注意しなければなりません。せめて担任は正職員が担えるような処遇にすることが必要です。通知改定によって保育士から声があがることで処遇が改善され、保育士が辞めずに経験を積んでいける環境になることを期待したいです」

通知改定で処遇改善につながる可能性が

これまで自治体の監査部門や保育課の職員からは「民間が運営すれば、あくまで民間の給与規定のため、行政は口を挟めない。園長兼経営者の年収が1000万~2000万円というのはザラにある。一方の保育士の年収が300万円程度だったとしても、最低賃金を下回るなど法令違反がなければ、給与額そのものを指導できない。保育士の適切な給与水準を国が示すことが必要だ」という声が大きかった。

今回の通知改定に伴い、内閣府が自治体向けに周知した動画では「監査のためのものではない」と強調するが、神奈川大学で地方自治を専門とする幸田雅治教授は、貴重な一歩として捉えるべきだと評価する。

「自治体は、通知改定で各地域区分の人件費額が公表されることで、保育士の処遇改善が前進するよう活用すべきです。それにとどまらず、自治体にはすべきことがあります。通知で示された保育士の年間人件費は最低限保障されるレベルですので、事業者が通知を基に給与水準を切り下げることがないよう、行政は厳しく人件費についての指導・監査を行わなければなりません。本来、“企業秘密”とされがちな保育士の給与や委託費の使い道については情報開示すべき内容と捉えるべきです。国が示した人件費の額以上に処遇改善をしていかなければなりません」

通知改定で一歩も二歩も処遇改善につながる可能性が出てくる。ある官僚は、「公務員として税金が保育士の処遇改善に正しく使われるよう、こうした通知を出すことは当然のことで、社会全体に関心を持ってもらいたい」と本音を語った。ややもすれば見逃されそうなこの通知改定は、役所が行う制度改定のただの1項目ではない大きな意味がある。

小林 美希 ジャーナリスト

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こばやし・みき / Miki Kobayashi

1975年、茨城県生まれ。株式新聞社、週刊『エコノミスト』編集部の記者を経て2007年からフリーランスへ。就職氷河期世代の雇用問題、女性の妊娠・出産・育児と就業継続の問題などがライフワーク。保育や医療現場の働き方にも詳しい。2013年に「『子供を産ませない社会』の構造とマタニティハラスメントに関する一連の報道」で貧困ジャーナリズム賞受賞。『ルポ看護の質』(岩波新書、2016年)『ルポ保育格差』(岩波新書、2018年)、『ルポ中年フリーター』(NHK出版新書、2018年)、『年収443万円』(講談社)など著書多数。
 

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