(第11回)日本のマクロ政策、金融緩和と緊縮財政

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本来行われるべきは財政支出の拡大だった

では、財政拡大と金融緩和が同時に行われていたとしたら、何が起こったろうか。

財政支出だけだと利子率が上昇するが、金融緩和を同時に行えば利子率上昇を吸収できる。すると、利子率不変で実質為替レート不変、貿易不変で、財政支出の増加分だけ有効需要が拡大する。その結果、国内に資本蓄積がなされ、国民生活の水準は向上しただろう。「内需拡大型の経済成長」とは、このようなものである。

しかし、実際には、財政が縮小したので、そうはならなかった。その代わりに、上で述べたように、外需と内需の入れ替えが顕著に生じたのである。

公共事業が圧縮されたのは、それまでの経済政策の反動でもある。すなわち、80年代には地方部への公共事業によって地方に資金を流したのだが、それが無駄な投資であり、政治的な癒着を生んでいるという意見が強くなった。そうした側面があったことは、事実である。そうした傾向を抑制したのは、意味があることだったと思われる。

しかし、「公共事業は地方に無駄な道路やダムを造ることだけ」というのは、あまりに単純化された見方だ。日本国内の生活基盤施設は遅れているし、将来の高度知識産業のために都市基盤を造る必要もある。しかし、こうした投資も一緒に否定されてしまったことになる。

公共事業が圧縮され、他方で税収は伸びたので、財政赤字は縮小した。この意味で、財務省のプランに沿った動きだった。ただし、政治的にも道路族の追い落としという意味があったのだろう。

国内に社会資本や住宅という資産を蓄積せず、アメリカに資源を流した。対外資産を蓄積はしたものの、その後の円高によって大きな損失をこうむった。したがって、結果的には、おろかな資産蓄積をしたと言わざるをえない。

【関連情報へのリンク】
国民経済計算 実質季節調整系列


野口悠紀雄(のぐち・ゆきお)
早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授■1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省(現財務省)入省。72年米イェール大学経済学博士号取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授などを経て、2005年4月より現職。専攻はファイナンス理論、日本経済論。著書は『金融危機の本質は何か』、『「超」整理法』、『1940体制』など多数。


(週刊東洋経済2010年4月17日号 野口氏写真:今井康一 小泉元首相写真:高橋孫一郎)
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