そうなると2つめの気がかりが出てくる。接種を担当する人材の確保だ。
本来は単に医療従事者というだけでなく、きちんと知識をアップデートしつつ、日常的に筋肉注射を行っている者が接種するのが望ましい。海外は筋肉注射がスタンダードなので、そうした医療従事者のリクルートには困らないだろう。一方、日本はそうはいかない。
ナビタスクリニックではHPVやB型肝炎(10代以上)など、複数のワクチンで筋肉注射を日々実施しているが、そうした医療機関は一般的ではない。今回の新型コロナワクチン接種では、ただでさえ医療人材の不足が心配されている。筋肉注射に不慣れな医師や看護師が駆り出されることになるのは目に見えている。
なお、予防接種は医療行為にあたるものの、「医師の指示」(保助看法37条)のもとに看護師が接種を行うことは認められている。新型コロナワクチンでもおそらく医師が予診し、看護師が接種するところが多いだろう。
手練れの看護師でも知識・体力に不安
川崎市の集団接種訓練では、看護師1人あたり1時間に15人接種する想定だった。ナビタスクリニックの医師・看護師が企業などに出向いて行う集団接種では、予診は医師1人、接種は看護師2人で、看護師1人あたり合計70人に接種することもある。ただしそれも、効率の良いセッティングで、インフルエンザワクチンを皮下注射する場合だ。それでも体力的な限界を考慮し、3時間で切り上げる(単純計算で1時間20人超程度)。
筋肉注射となると、皮下注射よりも打つのに意外と力が必要だ。安全確実な接種を担保するには、1人で3時間は持たないだろう。休憩・交代を頻繁に行う必要があり、医療従事者(看護師)を多くリクルートしておかねばならない。その点で計算違いを生じないか、気がかりだ。
いずれにしても、まずは医療従事者の人数を揃え、急いで筋肉注射に関する知識をアップデートしてもらうしかない。例えば、「Vaccine e-learning」などのオンライン教材で学び直してもらうのも一案だ。そのうえでB型肝炎ワクチンなどを実際に接種して、手技を確認しておくと確実だろう。
1月に行われた川崎市の接種訓練や、今月からの医療従事者の先行接種では顕在化していないのが、接種を受ける側の服装の問題だ。
要するに、腕の中でも肩に近い部位をささっと表に出せる服装が必須だ。先のとおり、インフルエンザなどの皮下注射であれば、接種部位が二の腕の低い位置なので、長袖でも少し腕まくりをすれば打ててしまう。一方、筋肉注射は接種位置が大分高く、長袖だと、袖から腕を抜いて肩を出さねばならない。
高齢者への接種開始は4月以降とされるが、例年まだまだ肌寒い日も多い。厚着で過ごされている方も少なくないだろう。その恰好のままで接種会場に出向いてしまうと、脱ぎ着に大幅に時間をとられてしまう。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら