仮にタブーがないと思われたことによって、緊張感が薄れてきたとしたら、タブーを見直したことによって、緊張感は増します。
そんな戦略が見え隠れするので、アメリカのAmazon本社のオリジナル制作チームにタブーの「底」の基準を聞くと、「コメントは差し控えさせて欲しい」という回答でした。
残念ながら謎のままですが、仕切り直されたシーズン9では、特にせいや(霜降り明星)と椿鬼奴が求められる役割を全うしています。切れ味のよいせいやの笑いと、場の雰囲気を変える椿鬼奴の芸風がカギとなって、全体の緊張感を高めています。それによって、既定路線のまま走らないことが『ドキュメンタル』の売りであることを再確認できる回になっているのです。
日本発サバイバルリアリティ番組として人気
誰もが楽しめる笑いをあえて追求しないことも『ドキュメンタル』を見逃せない根本的な理由にあります。それを実現した結果、独自性の高いコンテンツとして海外から注目を集めるにも至っています。実際、『LOL: Last One Laughing』のタイトルで海外版『ドキュメンタル』シリーズの展開国は次々と広がっています。メキシコ、オーストラリアでは名の知られた新進気鋭の芸人が参戦し、高額賞金を目指す日本発のサバイバルリアリティショーとして注目されています。ドイツ、フランス、イタリアでも現地版が制作される予定です。
なかでも、先行して作られたメキシコ版はシーズン4に突入するほどの人気ぶり。テレビのアカデミー賞にあたる国際エミー賞で評価された実績もあります。また日本でも配信されているオーストラリア版は、文化は違えど、国境を越えた共通の“笑いあい”があることを再認識させてくれます。説明要らずの笑いを追求しているのが『ドキュメンタル』のよさ。それをうまく反映したオーストラリア版も見逃せません。
前出のAmazon本社からPRポイントについては回答をもらっています。「最大の魅力は予測不可能性。その点が支持されています。コメディコンテンツに新鮮な視点を提供する番組にもなっています」と述べており、日本のお笑い番組フォーマットの利点を理解していることがわかります。
そもそもドキュメンタルの原点である「笑ってはいけない」シリーズは、「サイレント・ライブラリー」のタイトルで、海外でもよく知られる日本のお笑い番組の1つです。筆者が世界100カ国から参加者を集めるフランス・カンヌのテレビ見本市MIPTV/MIPCOMに足を運ぶたびに繰り返し聞こえてきたのは「日本の番組はクレイジー」だということ。これはほかならぬ最高の褒め言葉に値します。他国にはないユーモアセンスを持った番組を作り出すことに長けていると評価され続けているのです。
「笑ってはいけない」シリーズにインスパイアされ、海外市場を見据えて日本テレビが昨年、新たに開発したゲームバラエティ『SILENT GAME 音が出たら負け』の海外版『Mute it!』の製作が早くも決定し、日本発クレイジー番組がまた1つ各国に広がっていきそうです。
そんなわけで、日本コンテンツの売りを見直すうえでも『ドキュメンタル』は必見です。笑いの本質を突くバカバカしさにもビジネスの価値が詰まっていることを確認できます。
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