小売り全面自由化、新電力本命は東京ガス ガスや通信会社、生協などがなだれ込む

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家庭向け自由化後は新電力の勢力図も激変しそうだ。本命視されるのが、エネットにも出資する東京ガスと大阪ガス。「すでに膨大な顧客基盤を持ち、東京ガスのライフバルのように各家庭を回れる営業拠点も豊富。料金の検針や回収のシステムを持つことも有利に働く」(メリルリンチ日本証券の森貴宏アナリスト)。

東京ガスは今、発電と電力卸売りに参入しているが、家庭向けを含めた小売りにも参入する方針。「1年以内にスキームを考える。首都圏1100万件の顧客基盤を生かしたい」(広瀬道明社長)。メリルの森氏は、東電の契約家庭数の5%近くに当たる100万件獲得が当面の目標になる、と想定する。

同様に、ソフトバンクなどの通信事業者も個人の顧客基盤が厚く、システムを横展開しやすい。さらに、2700万人の組合員を持つ生活協同組合でも、地域の大規模組合が再生エネによる家庭向け小売り参入を準備しており、提携次第で可能性を秘める。

制度設計が重要

新電力の成功のカギは何か。「システム費用など供給原価を抑え、価格競争を耐え抜く力を備えるとともに、提携も通じて付加価値あるサービスで顧客を囲い込めるかだ」。アクセンチュアの竹井理文・電力・ガスシステム改革支援事業部長はそう指摘する。

90年代に自由化された英国では、ガス最大手セントリカ(旧ブリティッシュガス)が、電力でもシェア25%の最大手に急成長している。ガスと電力のセット販売による値引きに加え、リフォームや屋内機器修理など幅広い新サービス提供が決め手になった。

一方、ドイツでは98年の自由化直後は新規事業者が100社程度あったが、大手電力の送配電網使用料(託送料金)が認可制でなく高めに設定されたため、倒産が続出。日本では託送料金は認可制だが、その水準が極力抑制されることが重要だ。送配電の中立性を確保する発送電分離も、早く実現する必要がある。

これに対し、原発再稼働が不透明で、電力需給が逼迫している中での自由化は停電などのリスクを高める、と大手電力は主張する。が、「電気が逼迫している時だからこそ自由市場が必要。デマンドレスポンス(料金政策による需要調整)で節電やピークシフト、安定供給につながる」(富士通総研の高橋氏)。

電力需給調整では15年に設立される、広域的運営推進機関が大きな役割を果たす。この広域機関が送電線の中立的運用や発送電設備増強の指導・勧告で、どこまで強い指導力を発揮できるか。その制度設計の行方も自由化の成否を左右するカギとなろう。

週刊東洋経済2014年6月28号〈6月23日発売〉掲載の「核心リポート02」を転載)

中村 稔 東洋経済 編集委員
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