ワクチン接種の前に知っておきたい「抗体」の話 「抗体」とは何か知っていますか? 

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抗体は、くっつく場所が重要で、正確に鍵の先の部分にくっつけばいいのですが、それ以外の部分に抗体がくっついても意味がありません。結局鍵穴と合ってしまうと、ウイルスは細胞に入れてしまいます。

鍵の鍵穴に差し込む部分にしっかりくっつける抗体を中和抗体と呼びます。しかし、この中和抗体ができているかどうかは通常の抗体検査ではわかりません。ウイルスに対する抗体があるかどうかはわかりますが、抗体検査ではウイルスの鍵じゃない部分にくっつく、つまり役に立たない抗体も検出してしまいます。どこにくっつく抗体でも「抗体あり」となります。驚かれた方もいるのではないでしょうか。抗体ができても、効く抗体かどうかはわからないわけです。

だから、もし抗体検査を受けて抗体があったからといって、感染しても絶対大丈夫という保証にはなりません。もちろん、罹患した人の数がわかるという意味では、検査は無意味ではありません。ただ、完全な安心材料にはなりません。

ところで、抗体はウイルスの細胞への侵入を妨害するだけではなく、さらにいろいろな役割があります。抗体自体は相手にくっつくだけで相手を殺したりはできませんが、例えば細菌にくっついて、それが目印になって食細胞が細菌を食べることができます。

また、ウイルスが感染した細胞や細菌にくっつくと、抗体のお尻に補体というタンパク質がくっついて、この補体の作用で敵に穴を開けることもできます。つまり、こいつは敵だという目印の役目を果たすのです。

抗体は地道、ひたすら鍵と鍵穴を確かめる

さて、抗体でいちばん大切な鍵と鍵穴の関係がわかったところで、残りの説明をしましょう。前回記事で、抗体はB細胞と呼ばれる細胞の中でつくられるといいました。B細胞は、そもそもどうやってウイルスの鍵にあった抗体を出しているのでしょうか。

人間の世界だったら、監視カメラなどがあって、「こいつはこんな鍵の形なんだな」と認識し、「じゃあこんな抗体を繰り出して鍵穴を邪魔してやろうか」などと想像するかもしれません。しかし、人間の体には監視カメラはありません。

実はこれ、教科書などだとよく飛ばされるところなので、ぜひ説明しましょう。

病原体は無数にあります。しかも、次から次に侵入してきます。だから、どの抗体がはまるかわかりません。

免疫システムがどうしているかというと、なんと事前に迎え撃つ抗体の遺伝子を無数に用意しています。そして、侵入者が来ると、片っ端から抗体をつくり、何がはまるかを試しています。合鍵の束をじゃらじゃら持っている感じですね。

これを発見したのが利根川進さんです。どんな相手でも迎え撃てるように膨大な種類の抗体をつくる仕組みを解明した功績が認められて、ノーベル賞を受賞しました。

抗体の遺伝子はなんと何百万何千万種類もあります。抗体の遺伝子の鍵を決めている部分は、DNAの文字がぐるぐる変えられるようになっていて、莫大な組み合わせが可能なのです。そうやって異なる鍵の形を持った抗体の遺伝子は、ものすごい数が用意されていて、一つひとつ別のB細胞にしまわれています。

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