ワクチン接種の前に知っておきたい「抗体」の話 「抗体」とは何か知っていますか? 

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ちなみに、抗体があるかどうかの検査には、血液を検査しますが、少ないと反応せず、一定量の抗体が体内でつくられていないと検出されません。

自然免疫と獲得免疫

すべての生物が、抗体のような複雑な機能をもっているわけではありません。侵入者を食い殺す食細胞のような自然免疫は多くの生き物が持っていますが、抗体や、ウイルスが入り込んだ細胞ごと殺すキラーT細胞などは、脊椎動物にしかありません。

自然免疫細胞は「悪そうなヤツ」に対して、むやみやたらに攻撃をしかけます。攻撃が制御不能になり、自分の細胞まで傷つけてしまうときもあります。

一方、抗体やキラーT細胞による免疫は「獲得免疫」と呼ばれます。これらの細胞は、なんと、一度侵入された敵だったら、きちんと記憶します。 記憶した細胞をメモリーB細胞、メモリーT細胞といいます。

例えば、麻疹のワクチンを子どもの頃に打つと抗体ができて、それをつくったB細胞はメモリーB細胞となり、一生の間、麻疹ウイルスを敵として覚えています。再度麻疹ウイルスに感染すると「あの敵がきた」と認識して、効く抗体を出します。名前のとおり、免疫を「獲得」するのです。

敵が侵入すると、まずは自然免疫の細胞が出撃します。そして、彼らは情報を獲得免疫に伝えます。 ここで、1回侵入してきたことのある敵ならば、病気になる前に撃退できます。

記憶できることは、とても重要です。先に書いたように、初めての敵に対しては、無数に用意してある抗体からどれが効くか選ばないといけません。しかし、細胞に記憶があると同じ病原体が再び侵入してきたときに、この確認作業がいりません。だから、迅速に集中攻撃をかけられます。その結果、私たちは病気を発症しないか、軽い症状で済むわけです。「免疫がある」というのは一般的に、この状態です。

「でも、インフルエンザに毎年かかる人もいるよね」と思った人もいるかもしれません。実は、敵も巧妙で進化します。人間の免疫システムも万能ではありません。つまり、すべてのウイルスに対して一生有効な終生免疫をつくれるわけではありません。

代表的なところだと、風邪やさきほどのインフルエンザ、デング熱などには終生免疫はつくれません。

なぜかというと、これらのウイルスの遺伝子は、頻繁に変異するので抗体がくっつく部分の形を変えてしまうのです。ですので、ワクチンや感染によってせっかく獲得免疫を得ても、数カ月から数年しか持ちません。

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さらには、ヘルペスウイルスのように神経細胞の中に潜伏するため獲得免疫がまったくできないものもいます。中には、免疫システムの情報伝達を妨害できるように進化したウイルスもいて、ウイルス対人類の闘いは熾烈です。だから、未知のウイルスが出た場合、獲得免疫ができるかどうかはわからないわけです。

さきほど麻疹の話をしましたが、ワクチンとは、この獲得免疫の仕組みをつかっているものです。病原体の一部や、毒性を弱めた病原体、あとは、毒がないけれど鍵の部分だけにしたものなどを体内に入れて、効く抗体を記憶させます。

ここまでで、抗体の話はだいたいわかったと思います。ぜひ日々の生活に役立てていただければと思います。

吉森 保 細胞学者、大阪大学栄誉教授

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よしもり たもつ / Tamotsu Yoshimori

大阪大学理学部生物学科卒業後、同大学医学研究科中退、私大助手、ドイツ留学ののち、1996年オートファジー研究のパイオニア大隅良典先生(2016年ノーベル生理学・医学賞受賞)が国立基礎生物学研究所にラボを立ち上げたときに助教授として参加。2017年大阪大学栄誉教授。2018年生命機能研究科長。大阪大学大学院生命機能研究科教授、医学系研究科教授。

大阪大学総長顕彰(2012~15年4年連続)、文部科学大臣表彰科学技術賞(2013年)。日本生化学会・柿内三郎記念賞(2014年)、Clarivate Analytics社Highly Cited Researchers(2014年、2015年、2019年、2020年)。上原賞(2015年)。持田記念学術賞(2017年)。紫綬褒章(2019年)。

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