テック業界に女性が進もうとしない根本理由 「ジェンダー平等と教育」ベニオフに学ぶ本気度

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その点、セールスフォースをはじめとするアメリカのIT企業には、プログラミングを学習するコミュニティーに対して投資する文化があります。そして、そのコミュニティーからインターンが現れ、業界全体の裾野が広がっていく。つまり、投資することは、長期的には自身の産業を盛り上げることになるのです。

かつては、スパコンが好きな学生がコンピューターと接するという世界でしたが、これからは、異なる分野に興味を持つ学生が、その分野の問題解決のためにコンピューターが使えると気づき、自分の背景や領域にプラスしてコンピューターが加わることによって、また違ったイノベーションが起きると私は考えています。

そういう意味でも、IT産業の人材をよりよくするには、多様なコミュニティーとの関係性を作り、多様な学生を取り込むことが大切だと思うのです。

こういったコミュニティーとの関わりは、日本社会においては理解されづらいかもしれません。しかしベニオフさんは、それも含めて企業責任だと言っています。ご自分がなさっていることにプライドを持っている方だと感じます。

「無意識の偏見」には中高生からテコ入れを

セールスフォースの取り組みからも感じますが、やはり教育が大切で、中高生の時点からテコ入れをしなければならないと思います。

とくに日本においては、企業側に「女性を増やそう」という試みがあっても、結局、人材がいないということに突き当たってしまいます。工学部に進学する女子の比率は15.7%、理学部系が27.8%。これはいずれもOECD諸国で最も低い数字です。

この理由について調べてみると、学生を取り巻くジェンダーバイアスが非常に大きいということもわかっています。

まず家庭においては、親は、男の子には理系を、女の子には文系を無意識のうちに勧める傾向があります。例えば、夏休みの課外活動では、男の子にはロボットプログラム、女の子には英会話といったように。

また学校では、数学と理科の教員の7割が男性です。ところが、女性の教員だった場合、そのクラスの女子の理系進学率が11%上がるという調査が出ています。これらはアンコンシャスバイアスという、無意識の偏見から起きることなのです。

だからこそ、中高生の進路選択の時期にアプローチしなければ、構造を変えていくことはできない。そういった思いから、Waffleでは女子中高生限定のコーディングコース「Waffle Camp」や、女子中高生向けのアプリのコンテスト「Technovation Girls」などを開催しています。

とくに中高生の女の子は、プログラミングを始めるとなると、周囲から浮いた存在となってしまったり、ものすごく男女比の偏ったクラスに入れられたりして、居場所が見つからないという孤独に直面しています。そうなると、自分の選択に対して疑問を持ってしまうのです。

私たちの活動に参加してくれた女の子たちは、「自分の興味があることに対して、こんなにも同じ興味を持つ女の子がいるとは思わなくてうれしかった」と言ってくれます。自分の選択に自信を持ってもらいたいものです。

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