株式などの資産市場のブームが発生して、ファンダメンタルズ(基礎的な条件)では説明できない領域まで価格が上昇する「バブル」は、古今東西で発生してきた。機関投資家を打ち負かすという熱狂を背景とした群集心理による投機的な株高はバブルの典型である。今回、アメリカ株式市場で局所的にはバブルが発生したと位置付けられるだろう。
ただ、時間が経てばバブルは弾けて上昇した価格は下落する。もちろん、群集心理に基づくだけの根拠がない投資行動は、価格急落によって損失を被るリスクを負うことを意味する。リスクをしっかりと認識できないような個人投資家のパーティーは続かない。
筆者は今回の混乱が、アメリカ株市場の今後の趨勢に影響をおよぼす可能性は低いと考えている。SNSやスマホアプリという技術革新によって、群集心理によって局所的なバブルが起きて、一部の機関投資家の戦略が損失を受けた。だがバブル的な株高は持続しないので、時が経てば極端な値動きは収まる。2月に入り個人投機家に注目されているSNSサイトによる注目対象が、これまでの小型株から他の資産に早くもシフトしており、混乱が早くも収束する兆しが見られる。
今後問われるバイデン政権の市場への姿勢
一方、誕生したばかりのジョー・バイデン政権が、今後、株式市場の混乱をどのように扱うかは本質的に重要な問題だろう。今回の混乱のような事態が再び起きて、それが不健全に政治問題化するなら、今後のアメリカの株式市場の方向性に影響をおよぼすシナリオは考えられる。
今のところ今回の混乱は「勝ち組の機関投資家が優遇されて、個人投資家が損失を受けた」といった形で単純化できる問題とは言い難い。ただ、売り出し中のオカシオ・コルテス民主党下院議員は、一部銘柄の売買を証券会社が停止したことに対して「容認できない」と批判、下院金融サービス委員会で公聴会を開く意向を示した。極端な政治信条をもつ政治勢力が、政治的な動機によって、不合理な金融取引規制強化が起こりかねない。コルテス議員の発言などには、アメリカ政治の危うさを感じる。
アメリカの金融市場がこれまで発展してきた背景には、事前の規制の運営が他国と比べうまく運用されてきたことがある、と筆者は考えている。もちろん2000年代半ばのサブプライムローン問題は、金融業への監督規制が機能しなかったことで引き起こされるなど、金融規制運営が常にうまく行ったわけではない。
それでも事業者と当局者の間で穏健なルールが設定され、創意工夫がもたらす自由な競争が土台となり、これまでのアメリカでの金融市場や金融産業の発展を支えてきた。すでにバラク・オバマ政権時代に、サブプライムローン問題の教訓で金融業への規制強化が行われ、2010年頃にはウォール街を敵視する民衆の行動が広がった。そうした経験を経ても、やはり成長産業へのリスクマネー供給機能として株式市場の機能が重要であることは、アメリカでは広範囲に認識されているとみられる。
また、バイデン政権の主要閣僚は中道派のメンバーが多く、総じて現実的な経済政策運営が行われると予想される。SEC(アメリカ証券取引委員会)の委員長には、金融市場での専門知識を持つゲイリー・ゲンスラー氏の就任が予定されている。
これらを踏まえると、格差縮小を掲げる一部の政治的な運動が、アメリカの株式市場の障害になるリスクは限られるだろう。2021年のアメリカ株市場は、ワクチン普及とともに経済成長率が高まるか、そして経済成長を後押しする金融財政政策がしっかり続くかどうか。筆者はこれらが決定的に影響すると引き続き考えている。
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