「ゲームストップ騒動」示す侮れない社会の変化 エリートへの反乱が起こりやすくなっている

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グリ氏の著書によると、インターネットで情報とデジタルツールという新たな武器を手にした一般市民は、こうした武器を使って自分たちを統治するシステムや体制の弱点を見つけ出す。そして、システムや体制に欠陥が見つかるや、「自分たちは欺かれていた、真実を隠されていた」との怒りから反乱を起こし、エリートや権力機構をぶったたく。

グリ氏いわく、それが行き着く先は復讐心に満ちたニヒリズムということになる。既存の体制をどのようなもので置き換えるのかという明確なイメージもなく、とにかくエスタブリッシュメントに火を放ち、灰の山にしてやりたい、という衝動だ。

私としては、ゲームストップ株の事件にかなり当てはまる説明だと思う。

音楽が止まっても、乱痴気騒ぎは終わらない

要するに、今回の件は投機的な思惑で生じた単なるバブルでも、ばかげたイタズラでもない。まさしく「権威」そのものが危機にさらされているのである。

たとえゲームストップ株がクラッシュして暴落したり、規制当局の介入でこのパーティーが強制的にお開きにされたりしたとしても、覚醒したデイトレーダー集団はこれからも次々に混乱を引き起こし、金融エリートを混沌の淵へと引きずり込もうとするだろう。何十年も庶民を搾取してボロもうけしてきた報いを受けさせてやる、というわけだ。

なるほど、長い目で見れば、「反乱軍」が勝利することはできないかもしれない。権力側は急襲されても、反撃するだけの力を備えている。実際、すでにゲームストップ株で攻撃を仕掛けた反乱軍は次々と壁にぶち当たりつつある。なにしろ、「力なき者の側に立つ」というブランドメッセージを掲げるロビンフッド自体が、1月28日に利用者に対し、ゲームストップ株などレディット上で標的とされた一部銘柄の購入取引を行えないようにしたのだから。

とはいえ、レディットを拠点とするデイトレーダーにとっては象徴的な勝利を収められたことにこそ意味がある。彼らは今回の反乱で損失を被るかもしれないが、それでも自分たちの声を世の中にとどろかせることができた。十分な気合いとロケットの絵文字があれば、不謹慎で場違いな、ろくでなし集団でも株式市場を真っ逆さまにひっくり返せるのだ、ということを。

群衆はここにいる。かつてのウォール街は、もうそこにない。

(執筆:テクノロジーコラムニスト Kevin Roose)
(C)2020 The New York Times News Services

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