歩くと気づく「田園調布」に空き家が増える事情

渋沢栄一の街づくりに欠けていた視点とは

そう言いつつ、内海氏は渋沢の街づくりに甘さがあったのではないかとも指摘する。ハワードが建設したレッチワースの街並みの表面だけを見て、それをつくろうと考えたのではないかと。時代を考えるとそれだけでも十分評価すべきだが、加えて街並みを守っていこう、自分の家も景観の一部であるという意識が必要だったが、その理想が伝えられておらず、ルールも作られていないというのである。

それが自分の家なら何をしてもいいという考えや、長く使い続けるという発想のない家作りにつながり、短期間での建て替え、そのための過大な住宅支出、中古一戸建ての流通阻害などの原因となっているのではないか。土地や不動産の所有の在り方など、欧米との根本的な差異を踏まえた検討が必要だったのではないか。

田園調布以降、街は「住む」だけになった

その観点からすると、レッチワースが住のみならず、職や農、娯楽施設なども含めた複合的な街であるのに対し、田園調布、そしてそれ以降の住宅地が「住む」という単機能の街になった点も指摘すべきだろう。レッチワースに倣ったのであれば、なぜ、そこを捨てたのか。渋沢が田園調布をそうした街として作っていれば、それ以降の日本の住宅地の姿も変わったかもしれない。タイムマシンがあるなら過去に戻って渋沢を問い詰めたいところである。

売りに出ている土地の中には今の感覚では広すぎると思われるような区画もある(筆者撮影)

とはいえ、昭和に建設された郊外のゆったりした住宅地を再評価する機運が生まれ始めるなどコロナ禍で求められる住宅、住環境は変化している。田園調布の街自体の魅力、住宅のゆとりを考えると、再度、憧れの街として見直される可能性は十分にある。

そのためにはまちの現状を問題視して、なんとかしようという動きが地元に欲しいところだが、高度経済成長期、土地の切り売りが始まった時期には危機感からそれを阻止するためのルールが作られたものだが、現在は高齢化が進み、危機を感じる人もいないのだろうか、現時点ではうわさすら耳にしない。歩いてみると空き地や空き家だけでなく、外構などに手が回らなくなったのであろう荒れた雰囲気の住宅も明らかに増えている。

オフィス街や商店街でならありうるエリアマネジメントはプライベートに踏み込まざるを得ないため、住宅地にはほぼなく、田園調布も例外ではない。渋沢はとうの昔に亡く、田園都市株式会社(現在の東急)ともとくに関係があるわけでもない田園調布には現状、音頭を取る存在は見当たらない。

状況はあまりよろしくはないが、それでもこれから相続の発生する人たちが資産を維持し続けることができれば、それが砦となって現状を維持、少しずつでも変えていけるのではないかと期待する。これから相続を迎える田園調布の皆様にはぜひ資産を手放さずに済む賢い選択をしていただきたいものである。

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